唐沢(長篇)

□10.
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私の頭の中は完全に、

は?

となった。
突然何を言い出すんだ唐沢は。
だが、唐沢は真剣な表情をしている。

「どうしてそんな事言うの?」

と私は唐沢に問いかけた。
唐沢が私にそうやって言うって事は、日頃から私に何かしら疑問を抱いているからに違いない。
第一私は、唐沢のことがすごく好きだ。
それ故に、普段唐沢にそんな風に思われるような行いを私はしていたのかと思うと、少し、悲しくなった。

「いや、いいんだ。」

と、唐沢に言葉を返され、私の心はモヤモヤし、気持ちが晴れずにいた。

唐沢は歩きはじめて、私は立ち止まったまま。
唐沢にこのまま、嫌われていると誤解していてほしくない。

中々歩き出さない私に、

「どうした。」

と唐沢は振り返る。
正直、俺のこと嫌いだろ。
と、いきなり言い出す人間に、
どうした。と言いたいのはこっちの方だったが、

「嫌いなわけないじゃん。」

と私は言った。
そして唐沢の方へと駆け寄り、
もう一度、

「嫌いじゃない。嫌いじゃないよ。」

と言った。

なにも返事を返さない唐沢に、私はもう一度、唐沢のシャツの袖を引っ張りながら、

「嫌いじゃないからね。」

と言った。

すると唐沢は、

「そうか。」

とだけ言い、唐沢のシャツの袖を掴んでいる私の手に、自分の手を添え、
そっと、下ろした。

そして少し歩いて別れ道まで来ると唐沢は、

「じゃあな。」

と私に言い、
私たちはそれぞれ別れて、自分の家へと歩いて帰った。





嫌いなわけない。
だって、大好きだから。

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