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□花魁の恋(跡蔵)byつぐ葉
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[花魁と役人]



「あのとき、跡部はんが現れなかったら、どうなってたのか、考えると今でも怖いねん」
「そんなの俺だって同じだ。
お前が誰か別のヤツと一緒にいるとこなんて、欠片も想像したくない」
「だけど、半分以上諦めててん」
「なんでだ」
「まさか、あんな手段で来るなんて誰も思ってなかったと思うわー」
「俺は使える手を駆使しただけだ。
あんなものじゃ、俺の手間賃にもならないくらいに、働いてたからな」
「せやし、お母上は納得せんかったんと、違うのー?」
「人に無関心の息子が、関心を持ったってだけで蔵佳に感謝し
あの人は、だいぶズレてるからな」
「おうてくれはるやろか?」
「面倒だから気にしなくてもいい」
「せやし…」
「お前は、俺のことだけ、気にしろ」
「まったく跡部はんには敵わんわー」

同僚の北町奉行所与力・宍戸に頼まれごとをしたのは、ある朝のことだった。
「見廻りを交代してくれないか」
「なんで?」
「用事が出来ちまったんだよ。
ほかのヤツにも聞いてみたけど、みんな自分のところで厄介ごとあるらしくてな。
跡部のところは、なにも起きたりしてないんだろう?頼むよ」
[チッ、面倒だなと思うが口には出さず]
「わかった。
ところで厄介ごとが起きるところは、ごめんなんだが、そのへんは大丈夫だろうな」
「俺のところは問題はなかなか起きない」
「じゃあ、今日だけ、代わってやる」
「助かる」
「ただし、問題起きたら宍戸が担当するって約束付きだぞ」
「わかってるよ、跡部のところはなんで、いつも問題が起きないんだ?」
「うちの管轄の連中は、面倒ごとが嫌いみたいで他人に無関心なんだよ」
「世知辛いなぁ」
「それがもともとでも、こんなにも面倒ごとがすぐ、起きてたら嫌にもなるだろ」
「そういう連中は俺のところにはいないな」
「どっちがいいかは、わからないだろう」
「今日だけ、頼んだ」
「夜までなんだろうな、夜中は断る」
「わかってるって。
跡部は夜までしか管轄しないのは有名だろ」
「うちの連中は夜中はぐっすりってタイプの生活スタイルなんだ、たまたまな」
[そういう連中の管轄になるように仕組んだのは宍戸が知るべきことじゃないな。
ところで宍戸の管轄は…花街かよ。
くだらないことに巻き込まれなきゃいいんだけどな]


宍戸はほくそ笑んでいた。
「跡部に、俺の管轄の見廻りさせるの、成功したぜ」
「あの、跡部がお前の管轄の見廻りなんて、よく承諾したな、堅物なのに」
「そこは、俺様の腕だよ」
「どうせ自分、ほかの連中は厄介ごとで大変でほかに頼むヤツがいないって泣きついたんと、違うんか」
「忍足、なんで…」
「そうでもなかったら跡部があんなとこの見廻りなんかするわけないって思っただけや。
堪忍やで」
「あんなとこって人の管轄をよくも…」
「管轄で好き放題してる自分と一緒にしなや。
お奉行に話してもええんやで」
「おい、それは」
「せやったら、この話はしまいや」

跡部は考えていた。
花街、そんなところで厄介ごとが起きずに済むわけがない。
どうしたものか。
そこへ
「なんで、宍戸の頼みなんか引き受けたんや」
奉行所内では唯一話をする忍足が来た。
「皆が空いていないと」
「そないしても、花街の見廻りなんか親父殿が知ったら倒れるんとちがう?」
「知らせるつもりはない。
今日1日、それを乗り切ればもとの仕事に、戻るだけのこと」
「今日は花魁のお練りの日やから、人も多いと思うで。知ってたん?」
「知っていて受けると思うか」
「隠されたんかいな。
断ったらええやん」
「一度受けたら、翻すのは俺様の美学に反するからな」
「知らんで。あとで親父殿が怒鳴らはっても」
「うるさいぞ、忍足。
そこまで知っているならその時間帯だけ、手伝いに来るんだろうな」
「当たり前や。
親父殿が倒れられんようにするんが、俺の役目やさかいな」
「つくづく厄介な元に生まれたと思う。
お前まで巻き込んだこと、すまない」
「やめてーや、そういうのん、俺が自分で選んだ道なんやから」
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