Main

□王と虜囚の方程式(跡蔵)by浅葱
1ページ/6ページ

呼び出せばちゃんと来る。
命令をすれば、従順に従う。
白石は跡部の、それは健気な玩具であった。


それはいつかの練習試合の後。
「おい白石、生徒手帳落としてたぜ」
氷帝学園の部室でふたりきりになったとき、跡部が不意にそう言った。
わずかに白石は肩を強張らせる。
「助かったわ。おおきに」
あくまでさり気なく受け取ろうとした白石だが、何故か跡部はそうさせない。
白石は心臓が早鐘を打つ感覚に襲われる。
意地悪にかわされるばかりの、生徒手帳を持った跡部の手が、嫌な予感を確信にする。
「俺の隠し撮り写真だよな、これ。…おまえ、俺に気ぃあんの?」
男のくせに、と。
そのときの跡部の眼を、白石はずっと忘れられない。
甘く昏い、男の笑み。
刺激のない世界でようやく好ましい獲物を見つけたような、絶対的支配者のギラついた眼を。


「ん、ん…」
声を抑える癖のある白石の、唇に跡部が意地悪に指を指し込む。
白石が絶対に噛まないのを分かっていて、そうする意図はひとつしかない。
「あ、…ッ」
ようやく跡部の与える快楽に真っ直ぐ声を上げ始めた白石に、跡部は満足気に笑みを称える。
「もっと聴かせろよ、白石」
戯れに甘やかな台詞で、跡部は白石を支配する。
「男に貫かれてこんなに乱れるとは、イケメンが聞いて呆れる」
白石は、反論しない。
ただ、濡れた眼がじっと跡部を映していて。
「……」
それでいて、眼が合いそうになるとそっと眼を伏せる美しい双眸に、らしくもなく跡部はつかの間魅入られる。
「俺に抱かれて、どうだよ」
意地悪な問いかけが、白石を束縛する。
「好きな男に抱かれて、こんなにぐちゃぐちゃになって…どうなんだよ、白石」
跡部がずるいのは、こういうときだけわざとキスを降らせてくるところ。
これではまるで、跡部にその気があると錯覚しそうになる。
だが、白石は。
「…冗談は堪忍やで」
頑なに、跡部への恋慕を認めない。
あの生徒手帳の写真は、確かに跡部だったと言うのに。
だから、跡部はもっといじめたくなる。
「フン」
白石が、好きと認めるまで。
跡部が欲しくて欲しくてしょうがないと、この綺麗な男が認めるまで。
放してやる気はさらさらない跡部だった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ