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□せいかいのおと
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「寝不足ツラい…」
ぼーっとしながら歯を磨く。ここ数日寝つきが悪かったが、昨日は特に最悪だった。
考えを巡らせていたら結局朝になり、もはや横になって徹夜しただけだ。こんなことなら見張りを代われば良かった。
ぶくぶくとうがいをしたあと服を着替えて、甲板に出た。朝風が気持ちいい。
甲板には、刀を磨くゾロさん、なにやらはしゃぐルフィさんとウソップさん、海の様子を見るナミさん、タバコを吸うサンジさんがいる。
ふと、寝不足にいいメニューはあるのだろうかと思って、サンジさんのところへ向かう。
「おはようございます」
「おはようナマエちゃん!……クマが酷いな。顔色も……。眠れてないのかな」
目ざとく気づいたサンジさんは、心配そうな顔をした。
「寝つきが悪くてですね…。寝不足にいいメニューとか、ありますか」
「ああ、もちろん。レディの体調を整えるのもコックの仕事ですから」
ちょっと待っててね、と言い残し、サンジさんはキッチンへと消えていった。
一息ついて、甲板に座ろうと膝を曲げる。
その瞬間、ぐるんと景色が回った。
「!」
どうやら自分が思っているより身体は限界だったらしい。
倒れ込んで芝生の感触を感じたのを最後に、意識は闇に引っ張られた。
******
目を開けると、見えたのは天井。そして部屋に漂う薬品のにおい。
「……いむしつ………」
自分のいる場所がわかって呟くと、何やら薬を調合していたチョッパーさんがこちらを向いた。
「目が覚めたんだな!」
「はい…寝不足ですよね……わたし」
「そうだぞ!最近寝られなかったのか?酷い貧血だったし、発熱もしてる」
今は熱だけになってるけどな!と言って、チョッパーさんは再びゴリゴリと薬の調合を始めた。
今もがんがんとする頭痛の原因は熱らしい。そして貧血も相まって倒れたようだ。
薬を調合しながら、「あ、そういえばだな」とチョッパーさんが言う。
「ゾロが運んでくれたんだ。目の前で倒れたって」
「……え?」
何かの聞き間違いだろうか。思わず固まると、チョッパーさんは不思議そうな顔をする。
「?そんなに驚くことか??」
「ん、いや……意外だなって」
多分嫌われているので、と言いたいところだが、このことが知られるのはあまり良くないとわかっている。
すると何を思い出したのか、「あ!」とチョッパーさんは言った。
「確かに、すごい焦ってたなーゾロ!」
「ええ……??」
今度こそ聞き間違いだろうか。
回らない頭で考えを巡らせる私をよそに、チョッパーさんは薬の調合を終えた。
「それ飲んだらとりあえずまだ寝てろよ!倒れてからそんなに長い時間寝てたわけじゃないし」
「はーい…」
******
「ん"〜〜…」
「……起きたか」
「え"っ」
目が覚めて、一番に耳に入ってきた声に驚く。声のした方を見ると、壁に寄りかかって腕を組む剣士がいた。お見舞いなんてするガラでもないだろうし、どういう風の吹きまわしだろうか。
しばらく無言でお互いを見る時間が続いた。一対一でまともに会話をするのが久し振りで、何を話せばいいのかわからない。
でも何か、言わなければ。
「えっと………」
「…チョッパーなら何か探し物をしに行った」
何とゾロさんの方から話しかけくれた。久し振りの感覚だ。
「あ、はい……ああ、そうだ」
「何だ」
「ゾロさんが運んでくれたってチョッパーさんが…。ありがとうございます…」
「…目の前でブッ倒れられたらな」
そっけない言い方で言うが、ここ最近感じていた声の冷たさはあまり感じられない。
だんだんと、肩の力も抜けていく。
「それで、どうしてここに来たんですか?」
「……」
あれ、何か、間違っただろうか。
質問した瞬間、ゾロさんの顔が強張った。
心臓が嫌な音を立てる。せっかく元の接し方になる気がしていたのに。
緊張しながらゾロさんの様子を伺っていると、ゆっくりと口が開かれた。
「……話してェことがあったから、…来た」