刀剣乱舞

□ある日呼ばれたのは
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──私はとある博物館に来ていた。






仕事、仕事の日々に疲れ、何も考えたくなくなってしまい近場を散歩中。



いつも仕事に行くために使っていた道なのだが、毎日通っていれば到底見逃すはずもないのに、初めて気がついた建物は看板を見るにどうやら博物館。
審神者は引き寄せられるかのようにそこへたどり着いた。





(毎日通ってる道なのに気がつかなかったの…?
こんな大きな建物を見逃すなんて…よほど疲れていたのね……
博物館、みたいだけど…)









毎日通っていたら、工事中や建設中という看板を1つ2つ見ていてもおかしくない気はする。
それを見かけないなんて、この大きな建物を一晩で作り上げたとでもいうのか。




そうは思ったが、博物館自体めったに行く機会がないため、どうせなら見学しようと思い入場料を支払い中へ。




(受付の人、なんで顔を布で隠してたんだろう…見られたら困るのかな?)




なんてことを考えながら受付を通り中へ。





館内は展示物以外は薄暗く、涼しいというよりも少し肌寒い。

館内の音楽は雅楽なのだろう。
鼓や尺八、琴などの音色が聞こえる。




(学生時代、こういう音楽好きだったなぁ…)





学生時代は歴史が好きで良くこういった音楽を聴いていたなと思い出しながら
どうせ一人だし、とのんびり館内を回ってみることにした。





どうやらこの博物館は刀や槍、薙刀、剣など過去に使われていた武器限定の博物館のようだ。






そして何故か展示ブースの中に、青年や少年、大人の男性までもが刀を前に置き、祈るかのように瞳を閉じていた。




それぞれがまるで神聖な神のような神々しさを纏っている。





ただ、ここまで大きな博物館なのに
自分以外の人間が誰一人としていない。




最初は博物館に興味を示す人が少ないだけだろうと思っていたのだが、どれだけ進もうが誰一人として居ないなんておかしい。








不信感を抱きつつも続けて見て回ると、三条と書かれたエリアを見つけた。


何故か目を引いてしまったので、
大人しくその感覚に従う。







(石切丸…萌黄色の狩衣なのね。よく見るのはもっとくすんだ色だったけれど、これは初めて見る色だわ。
目を閉じていても纏う雰囲気が優しげね、さすが神刀)


(今剣…子供の天狗なのかしら…目を閉じて座っていても、遊びたくてうずうずしてるように見えるわね
なるほど、源義経が使っていたとされる短刀…)


(岩融…座っているのに大きいと分かるなんて、どれほど大きいのかしら…
武蔵坊弁慶が使っていたとされる薙刀…柄も刃先も、とても綺麗……)


(小狐丸…とても艶やかでフワフワな美しい髪をしているわね。
この男性がこの刀を使っていたとされる人をイメージしているのなら、昔の服装を考えるとかなり珍しい衣装ね)





などと心の中で感想を言っていると、
その三条のエリアの中でも一際目立つ、一振りの刀を見つけた。






まるで輝いているかのような錯覚に陥ったが、なんだろう?と思い、その刀の前にある説明書を見てみる









「……三日月…宗近」






それは、この世のものとは思えないほど美しかった。







艶やかで美しく流れる髪、綺麗で豪華な髪飾り、彼も先程見た石切丸と同じく藍色の狩衣を身に纏っている。




この男性だけは目を閉じておらず、目の中にとても綺麗な三日月を宿している。

そして、どこか儚げに笑っている。








「彼は、周りとは違う儚さと美しさを持ち合わせている…
それに他の子達とは違って、この三条モチーフの男性達は和装に身を包んでいるのね」






ポツリとはいた言葉が、目の前にいる男性の耳に聞こえていたのだろう







「…我らの姿が見えるのか?」




「!?…し、喋った…?」





「うむ、其方の目には、我らが見えているようだな」






綺麗な顔が目を細め微笑む。





「もしかして、だけれど…
あなたは…三日月宗近、そのもの?」




「そうだ。其方の名はなんという?」





名乗ろうとした所で昔読んだ本に、
"神に真名を告げてはならぬ"
と書いてあったことを思い出した。





「…仮に貴方が刀そのものの付喪神だったとして、
神である貴方に真名を告げてしまうと、神は己が神域に閉じ込めてしまい、二度と現世へは帰れない、と聞いたのだけれど」





「……ほう?それをどこで」



「私は歴史が好きでよく本を読んでいたの、神話とかそういったものの。その中の本に書かれていたわ」







「そうか…しかし、それは嘘だ。
ただの刀の付喪神である我らにそのような力は備わっていない」





その説明こそが嘘だ、と分かる顔をしている三日月






「それは嘘よね、あなたの目を見れば分かるわ。
貴方の瞳は濁りのない綺麗な瞳だもの。
目は口ほどに物を言う、と言うでしょう?
…まぁ別に真名ぐらい教えても良いのだけど、ただ純粋に聞いてみたかっただけ」






クスクスと口元に手を当てて笑う私を見て、少し驚いた顔をした三日月。





よほど私という存在が、おかしく見えたのだろう。
ひとしきり笑った後、彼の目を見て





「名前は……審神者よ」







と名乗った。






「審神者…良い名だな」






「ありがとう。親に貰った大切な名を褒められるのは嬉しいわね」







「そうか。ならば真名を教えてくれた礼に、
俺の神域に招待しようではないか」




「えぇ、是非」




「では少々目を瞑っていてくれるか?
その間に移転が終わる」





言われた通り目を瞑る。


目を瞑っている間、ふわりと体が浮いた気がした。
少しして、何処からか吹いた暖かい夏風が体を撫でる。






「もう目を開けて良いぞ」





三日月の優しい声に従い、ゆっくりと目を開けていく。






「わぁ…綺麗…」






目の前には大きな桜の木が植えられていた。

自分が博物館に入った時期は、冬も間近に近づいた秋だったのに。





「俺はこの縁側で茶を啜りながら見るこの桜が一等好きでな」





と隣で湯呑みを持ちながら座布団の上に座り、微笑んでいる三日月が居た。

ちゃっかり茶菓子もお茶も二人分用意してある。







「ここはとても綺麗な場所ね。
でも何故かしら……どこか寂しく感じるの」






「そうだろうな、この神域には俺しか居ないからな。
故にこの神域はあまり好かぬのだが…
あの桜が見たくてたまに神域へ足を運んだりする」




「そう、なの…」



「審神者を落ち込ませるつもりではなかったんだがな、はっはっはっ。
所で審神者は、俺だけでなく他の者も見えていただろう?」






「えぇ、見えてたわ。普通は見えないものなの?」






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