【main1.】story

□星空に響く足音
1ページ/7ページ

「せんせーさよーなら」
「おー。気をつけて帰れよ」

飛び交う軽やかな声に包まれながら、長い坂道を下る。
レンギョウとツツジが続く道に、浅葱色の制服がぽつりぽつりと水玉のように散るこの風景を見るのも、もう5度目になる。
5年前の春に初めてこの坂を登ったときのことは、まだ記憶に新しい。
どんな高校だろうかと緊張と不安を抱えていたけれど、進学校ということもあり、特に毎日問題もなく真面目な生徒ばかりだった。毎日遅くまで勉強に勤しむ姿は懐かしくもあり、時には頑張りすぎていないかと心配にもなったけれど、合格の喜びを一緒に味わえるのはやはり嬉しいものだった。

「ジェボム先生」
「ジニョン先生。もう帰りですか」

同僚のジニョンは、1年遅れて赴任してきた隣のクラスの教師だ。
海外への留学経験があり、授業だけでなく進路についても生徒たちからの相談が耐えない。
留学など考えたこともないジェボムにとって、その行動力や考え方には見習うところが多かった。
並んで坂を下り、角を曲がってすぐのバス停に並ぶ。
この時期になると、初めてジニョンと会話した時のことをよく思い出した。

『家どの辺りなんですか?』
『このバスで4つ目です 』
『うちは5つです。すぐ近くですね』

何気ない会話だったけれど、年齢も住まいも近い同僚ができたことがとても嬉しかった。
今年は初めて同じ学年の担任になったので、色々と一緒に仕事をする機会も増えるだろう。
そう思うと、これからの一年に期待が膨らんだ。

「受験も一段落してやっと少し落ち着きましたね」
「そうですね。2組はどうですか?」
「みんないい子ですよ。でも体壊さないか心配です。せめて分かりやすく教えられてればいいんですけど」
「それは大丈夫でしょう。早速うちのクラスでも評判ですよ、ジェボム先生の授業」
「本当ですか?嬉しいな」

窓の外は、黄色と赤紫の花々で鮮やかに色づいていた。
たった3年間で目覚ましく変わっていく生徒たちを見ると、自分は年を取るだけで何も成長していないのではと思うこともあった。
教師は既にある知識を切り出すばかりで、新しく何かを学んで成長する機会はそう多くない。
それでも同じ生徒、同じ一年間というものは存在しなかったし、彼らの成長に寄り添うことで自分にも少なからず何らかの変化はあるはずだった。
少しだけ開いた窓の隙間から、ふわりと甘い花の香りが車内を満たす。
今年はどんな一年になるんだろうと、ジェボムは清々しい気持ちで深く息を吸い込んだ。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ