【main1.】story

□星空に響く足音
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「せーんせ。分かんないとこあるんだけど」

職員室の入口からひょこっと顔を出し、ひらひらと手を振るユギョムは、その身長を持て余すかのように少しだけ背を丸めて中を覗き込んだ。

「ん、いいよ。どこ?」
「ここです、V−2のとこ」
「あれ、この問題できてなかったか?」
「うん、でもまた分からなくなっちゃって」

空いている椅子をずるずると引き寄せ机にぴたりと付けると、ユギョムはジェボムに寄り添うように座って教科書を指差した。
ユギョムは明るく素直で成績も良かったため、生徒だけでなく教師たちからも信頼されていた。
変に真面目すぎるわけでもなく、持ち前の明るさからクラスの中心的存在であったし、一方で誰にでも分け隔てなく接しているように見えた。
とりわけ数学の成績は良く、こうやって分からないところはすぐに復習する。
そんな生徒から頼りにされることは、ジェボムにとって嬉しくもあり誇らしくもあった。

「ああ、そうだった。先生の説明やっぱり分かりやすくて好き。家庭教師なら良かったのに」
「そう?何でも聞いていいよ」
「何でも?じゃあ…先生カノジョいる?」
「はは、なんだよそれ」

大きな図体を屈め、上目遣いでこちらの反応を伺うように質問する姿が可愛らしい。
予想外の質問ではあったけれど、この手のことは興味本位の生徒たちからこれまでも聞かれたことがあったし、その度にお決まりの回答をするだけだった。

「いないよ。そんなこと聞いてどうするの」
「ふふ。いてもここじゃ言えないか」
「本当にいないって」

それならいいんだけど。そう言ってユギョムは笑顔で職員室を後にした。
向かいの席のジニョンは、頬杖をついてその様子をじっと見つめていた。

「ユギョム、よく来ますね」
「そうですね。熱心で感心しますよ」
「それだけじゃないみたいですけど」
「え?」
「いえ、なんでも」

3年の担任たちが、職員会議を終えて戻ってくる。
雑音にかき消され、最後の方はよく聞こえなかった。

「本当にいないんですか?彼女」
「いないですよ。忙しくてそこまで手が回ってないだけですけど。ジニョン先生は?」
「いません」
「意外だな。モテるでしょう?女子校の教師だったらほとんどの生徒がジニョン先生のファンじゃないですか」
「いえ…気になる人はいるんですけどね。向こうは気づいてないみたいで」
「言ってないんですか?ジニョン先生のこと振る人なんていないと思いますけど」
「そうですか?」
「もちろん。賭けてもいいですよ」
「じゃあ頑張ってみようかな」
「いいですね。結果、教えてくださいね」

ジニョンは目を細めて笑顔を作ると、再び視線を手元の資料に移し、夜間自習の準備を始めた。
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