中編夢

□幸せの花嫁1
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私は母親という存在を知らない。
私の母は私を産んですぐに亡くなってしまったからだ。
そのせいか父は母が死んだのは私のせいだと私に対する嫌悪感がとても強く、幼い頃は父に甘えたくて近付いて蹴られた事もある。
だから私は父が嫌い、そして同じ様に上の三人の兄も嫌い。
兄達もまた父の私に対する態度を見て育ったせいか私にはとても冷たく、いじめられる事も頻繁にあった。
居心地の悪い父の側にも兄達の側にも居たくなくて、一人部屋に籠るか住んでいる屋敷から勝手に外に出て遊んだりばかりしていて…誰かに対する甘えも、他人からの愛情も知らない。
一人ぼっちで育った様なもの。




「お前、結婚するんだってな。居なくなってせいせいするよ。」

ある日、私は三番目の兄に突然そんな事を告げられた。
何の話か分からずに聞き返すと、

「とぼけんなよ。」

と冷たく言い返される。

「海賊の所に嫁ぐんだろ、粗相すんじゃねぇぞ。」

そんな話、私は聞いていない。
それも海賊に嫁ぐだなんて…意味がわからない。

居てもたってもいられず父に確認をしたら、兄の言った事は本当の事だった。

私の住むこの島は、サトウキビの生産が盛んな島だ。
国王は居ないがその代わり領主である私の父が一番の地位を持ちこの島を仕切っている。
今回の結婚の話はそれが発端。
この島のサトウキビから採れる砂糖を気に入った海賊が、定期的に砂糖を提供する事と領主である父と血縁関係を結びたいという話を持ち掛けてきたらしい。
合意すれば島を守るが、断ればその場でこの島を滅ぼすと。
しかしその話は父にとって都合のいい話だったらしく、勿論すぐに合意したという。
つまりは父が勝手に決めた、私の意見を無視した政略結婚。

「これで目障りな存在が居なくなる。」

父は私を見てはっきりとそう言った。
やはり私は父にとってその程度の存在なのでしょう。






こんな父の為に…結婚なんて、誰がしてやるものか。

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