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□Sogni stupidi
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不謹慎な願いを叶えて。







私は、昔から好きな作品がある。ジョジョの奇妙な冒険だ。独特なタッチも好きだし、ストーリーも好きであるが、何よりも私が好きなのは、登場人物である。何とも奇妙でスタイリッシュな服装、髪型、人間性、口調、性格そのどれもが魅力的でならない。大学生になった今でも好きな作品だ。得にギャングが題材になった5部。このシリーズが好きだ。そして、この作品の中で暗殺チームと通称される彼らが好きだ。暗殺チームはやはり紛れもない悪役である。それでも私は彼らを好きだった。全員が無残に死にゆくとしても。何とかしたい、できるならば、トリップ、そう、原作が変わってしまうのは嫌だから、パラレルワールドがいい。そこで彼らを救いたいなんておこがましく、厚かましいことを思う。幼いころから習い続けたピアノで、彼らを想って、彼らに似合いそうな曲を弾いて今日も眠りについた。







いつも通りに目覚めたはずだった。いや、目覚めたのだ。だが、視界がなんともおかしい。うっすらと差し込むのは朝日ではなく、月明りで、すぐ横の窓から風景をうかがうに、到底日本ではなかった。探せば日本にもこんな景色があるのかもしれないが、私は見たこともなかったし、片腹痛い根拠だが、風が、違うのだ。

「……イタリア?」

そう本能、直感が告げていた。外に出てみたい衝動にかられた私は、ベットから抜け出し、見たこともない自分の部屋から玄関へ向かうことにした。どうにも月明りが明るく電気をつけなくても歩くことは困難ではなかった。寝室の扉を開けると、一人で住むにはちょうど良い広さのリビングが待っていた。玄関まで歩みを進めて何か靴を、と思い視線を下げるとわずかに視界の隅に人の足が見えた気がして、左を向くと、瞬きをするモデルの様に美麗な黒髪の女性がいた。近寄ると、その人も近寄ってきて、同じポーズをする。それが鏡であることを理解するのに数秒かかった。見た目が違うのだ。大学に入り、グレーっぽく染めたはずの髪はきれいに真っ黒で、平々凡々とした顔は、パリコレモデルの様に整っていた。唇は紅を引いたように赤く、拭っても色が薄くなることはなかった。ナイスバディのおまけつきだ。

「この服、すっごいジョジョ…え、顔もジョジョ………………トリップ?!?!?!?!」

素っ頓狂な声を上げ、一人驚きと、喜びと、不安に百面相する。遂に、やってしまった、まじにトリップしてしまった。嬉しいけど、けども!!!もっと事前に知らせてほしかった!!!なんかあるじゃん!!!夢の中で仙人が話しかけてくるとか、謎の声が聞こえるとか!!!!あるじゃぁん!!!!!!まぁ、そうはいっても、嬉しいものは嬉しい。ずっと、ずっと思い描いていた不謹慎な夢をかなえられるのだから。厚かましい、おこがましいとさんざん自分に罵倒を浴びせてはきたけれど、なっちゃったんだから、やるっきゃない。目の前にあった、不思議なデザインのヒールを履き、鏡に向き直り、くるりと回ってみる。

「ナイスバディ!」

テンションが上がったまま、玄関を開けると、イタリアの、自分の知るあのイタリアの景色が眼前に現れた。

「少し、散策して、ここがどこか確認しなきゃね」

あてもなく、ただ、自宅への戻り道は忘れないようにゆっくりと歩き出した。手首に巻き付く腕時計には、11時と針が示していた。30分ほど歩きながら、ある程度の計画を立てなければ。どうやって接触するか、信頼を得るか、組織に入るか、暗殺チームに入るか、そこまで考えて、一つ重大なことを思った。スタンドは?私は話の流れで誰がどうするかわかってはいても、それを素直に伝えたところで信用してはもらえないだろう。逆に怪しまれる可能性だってある。なにより、彼らの意思をもって彼らの行動となるのだから、その辺には触れたくはない。となると、ただの一般人なわけだ。まずい。それは非常にまずい。組織がそんな人間を採用するはずもないし、採用したとて、捨て駒だ。早急にスタンドを持たねばならない。そしてそれを使いこなさなければ。欲を言うのであれば、暗殺に役立ちそうな能力がいい…。目立たず、強い、確実に相手を殺せる能力。ポルポにあって、試験を受けるがいいか、自己防衛本能で開花させるがいいか…

「まぁ、どっちにしろ才能がなきゃ死んで終わりか」

暗殺チームに会うくらいまでは案内してくれてもいいものではないだろうか。私を導いたどこぞの神様よ。細い路地を曲がってみようとしたとき、素早く出てきた人影に結構な勢いでぶつかってしまった。

「すいません!」

矢継ぎ早に謝罪を述べるも、日本語で話が通じるのかという不安に駆られる。相手の返答がすぐにないので、通じていないと判断し「えっと」となんとか伝えようと顔を上げると、それ以上の言葉がつなげなかった。目の前にいるのは、今現在一番会いたいと願った人物で、銀色の前髪を揺らし黒く赤い双眸をこちらに向けている。リゾット・ネエロだった。

「すまん」

そっけなく返事をして立ち去ろうとする彼を逃してはならないと、必死に言葉を並べようとするが、どれも違う、ああだこうだと頭の中でやっているうちにリゾットは一歩一歩と遠のいている。

「あ、あの!」

強く地面をけり、リゾットのコートの裾を掴んだ。振り替える彼の眼には静かな殺意のようなものが見え隠れしている気がした。こちらの言葉を待っている。

「組織への、パッショーネへの入団の方法を教えていただけませんか」

「…」

「私は、特殊な力があります。お荷物にはなりません。どうか」

半分はったりのような言葉をまくしたてる。じっとリゾットの目を見つめる。長い沈黙の後、「刑務所の中のポルポという人物に会え。そいつの面接に合格しろ。」ぽつりと教えてくれた。

「ありがとうございます!」

これで、何とか、暗殺チームへの接触の手掛かりはできたはず、そう思うと家に着いたとたんに笑みがこぼれた。明日、昼頃にポルポのところへ行こう。静かに目を閉じた。頭の中には、いつものピアノが流れていた。
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