Dream

□リップクリーム
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久しぶりに訪れたなんてことはない時間、日常のありふれた時間が、とても大切な時間

最近はお互いに忙しくて、なかなか2人でいる時間が取れなかった

一緒に住んではいるものの、普通の会社員の私と、ユキでは生活時間が全くかぶらない日々

お互いの寝顔に行ってきますとただいまのあいさつをしたのだって1日や2日じゃすまない


そんな中の久しぶりにお互いがゆっくりできるこの時間


3人掛けのソファの右側のひじ掛けに肘をつきながら、よりかかるようにしてパソコンとにらめっこをするユキ

左側のひじ掛けを背もたれ代わりに寄りかかりながら小説を読む私

ローテーブルにはコーラとコーヒー


コーヒーを飲みながら正面のユキの横顔を見る


真剣な視線も、唇をさする細く長い指も、サラサラと流れる髪も、ユキを形成する全てに心奪われる

読みかけの小説の続きよりも、ユキの一つ一つの仕草に視線は釘付けになる



『…見過ぎ』



さすがに視線に気づいたのか、ユキがパソコンから視線を外さずに言う



「うん」



見過ぎなのはしょうがない
久しぶりのユキなのだから



『うんじゃなくてね。』

「…うん?」

『そんなに見られてたら集中できないでしょ?』

「…集中したいの?」

『…なにそれ?』



ちょっと不機嫌そうなユキの声に首を傾げる



「ソレ、急ぎじゃないんでしょう?」

『…なんで?』

「だってここでやってるもの」

『…?』



ユキは基本的に仕事部屋に籠って作業をするタイプ
籠らずにしているのなら、それは急ぎとかそういう類のものではないはず
だから集中が切れたのなら、パソコンから私に構う対象をかえたっていいはず



「ねぇユキ」



コーヒーと小説をローテーブルに置いて、体を起こせば自然とユキに近づく



「今使ってるリップ、チョコの香りなんだよ?」



こちらを向いたユキのそばに手をついて少し上目づかいで告げれば、少しびっくりした表情

でもすぐににやりと笑って、パソコンを寄せて私の頬に手がそえられる、そのまま顔が近づいて



『…ほんとだ』



そういって柔らかく笑った後に、さらに近づいてくるユキに私は目を閉じた

軽く触れ合った後、唇を甘噛みされる
しばらくそうしていた啄むようなキスを交わした



『…味はしないんだね』

「リップだからね」

『…だね…でも…』

「…ん?」

『甘い…もっと…』



そのままソファに押し倒されて、深いキスと甘く囁くようなユキの声に酔った午後








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