短編集
□思慕
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「セレーネ様、危ないですよ。そんな端にお立ちになられては」
「大丈夫よ、くすッ…落ちたら貴方が私を助けてくれるのでしよう?」
「あゝーまぁそうなんですが、仰る通りなのですが、セレーネ様だからと言って毎回毎回家臣の者達の気苦労を少しはお考えになられて頂きたい」
「くすくすっ、わかりましたわ」
ふわりと宙に浮いているセレーネに実際助けなど要らないのはわかってはいるが、彼は少々呆れ口調で、
「姫様、私はもう知りませんよ。」
アレは体術の月歩だな、姫はいつ習得なさったのだろうか日々鍛錬などしている様子など見た事が無いのにと彼は首を傾げるばかりである。
「あっ、王陛下」彼は膝を折礼を尽くした。
「あの子は一族の中でも特殊だ、見ただけで海綿の様に様々な事を吸収してしまい、直ぐ応用して自身の力にしてしまう。」
「王陛下、先が楽しみで御座いますね。」
「いや、あの様な力は本来ならば必要無いのかもしれない…逆を言うならあまりにも危険過ぎる」
「…危険…で、御座いますか陛下。」
「…」
「お父上様ー。」
無邪気に宙に浮いているセレーネは、散歩している様にご機嫌そのものであった。
「セレーネ様そろそろお戻りになられて頂きたいものです…ほら彼方此方の家臣達が心配顔して居ますよ。」
「はぁーい」
スタッと舞い降りた姿は妖精か天使かと見間違う程の美しさを感じる彼であった。
「姫様、お辞めになって頂きたい」
「如何して?風が気持ち良いのですよ…」
と小首を傾げながら答えた。
セレーネ付きの女官達が、
「姫様、そろそろ…お部屋にお戻りになられて下さいませ、勉学のお時間で御座います。」
「えーっ、つまらないです」
「いけません、王族の皆様方には相応の教養をお持ち頂かなければ国民に示しがつきません。」
「兄君様や姉君様方もきちんと身につけられた御教養で御座います。」
「わかりました」俯き加減にポソッと答え部屋に戻って行った。
「セレーネもわかっているが、遊びたい年頃だ、ましてあの子は人一倍好奇心旺盛だから。」
「陛下…」
「其方も色々学ぶが良かろう、学ぶ事は人を成長させるであろぅからな。」
「御意…」彼は自室に戻り窓際に立ち王国を見つめていた。
城は、高台にあり大概の窓からは城下町王国を一望できるのである。
静かな時間が過ぎ、陽が大分西に傾いた頃、セレーネの歌う声が庭園から聞こえて来た。
『姫様は、勉学の時間は終わったのか?』
窓を開けて声の主を探した。
「サボー」
「えっ!?」いきなり自身の名を叫ばれギョッとする彼をセレーネは、庭園から仰ぎ見てにこにこしながら手をブンブン振っていた。
『王女ともあろう方が…』半ば呆れた様に
「姫様…その名はやめて頂きたい。」
「どーして?」ふっと小首を傾げる様は実に可愛らしい。
「ですから、やめて頂きたい。」
「何で?貴方は…サボ…でしょう、違うの?」
「違いませんがやめて頂きたい!」
「あっ怒った」ヒョイと空中に逃げるセレーネ
「セレーネ 、 様…」
「過ぎました、ごめんなさい。貴方がそんなに嫌な事はやめます。」
セレーネは彼の前に降り頭を下げて謝った。
「姫様…」
「参謀総長…」
サボ…参謀総長は現王の姉君の子供であり、セレーネとは従兄妹同士の血縁に当たる。
しかし、セレーネはその事は知らされてはいないが多分看破して知っている様に思える。
だから誰も知らない彼の幼名を…。
※サボとセレーネの遥か過去在りし日の記憶のお話