香薫る道

□始まりの時
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ざあ....ざあ....ざあ....
 

 ざあ....ざあ....ざあ....



雨が降りしきる中 女は横たわっていた



地面に叩きつける雨と 跳ね上がった泥が



女と女の艶やかな着物を汚した



雪のように白く柔らかな肌も



輝きをもった美しい御髪も



今はその雨と泥で汚され 輝きは断たれた



女の息は生きていると言うには



あまりに弱々しく



しかして死んでいると言うには



あまりにも目に光が宿っていた



女の力強い視線の先には



一人の幼子が泣きじゃくっていた



ぷっくりとした可愛らしい頬



零れ落ちそうな大きな瞳



娘の容姿を台無しにするのは



雨か涙か  その両方か



今となっては分からぬまま



女は幼子に自分の羽織を着せ



凍える冷たさの雨から守るように


手を握った



そして 最期の言葉を幼子に渡し



永久の眠りについた



一人残された幼子は既に事切れた女に似合う



清らかな薫りを纏った小さな袋を



女の懐から取り出した



母の羽織と小さな匂袋を抱き締め



幼子はふらりふらりと歩き出した



幼子の行方は雨音と共に消え去った


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