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□オムライス幸福論
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ゼロはファミレスに来れば、毎回オムライスを注文する。
前に、なんでいつもオムライスなの?と質問したら「美味いからな」と、ごもっともな回答が返ってきた。
いや、そういうことを聞いてるんじゃなくてね、他にもいろいろあるじゃない。
ハンバーグとか、パスタとかいろいろさ。
そりゃ、オムライスは美味しいしわたしも好きだけど。

そこまで考えて、目の前で美味しそうにオムライスを頬張るゼロを見て、なんだかどうでも良くなってしまった。
自分が食べたい物を食べたらいいもんね。と自己解決して、わたしも目の前のグラタンに手をつけた。


食後、コーヒーを追加注文してそれを飲みながら駄弁をしている時、ふと思い出したかの様に、ゼロが口を開いた。

「俺がオムライスばかり食うのは、単に好きだからってだけじゃない」
「…へぇ、そうなの?他に理由があるんだ」
オムライスの件は、わたしの中で終わっていたんだけど。
そう思いながらゼロの言葉に返事をした。
さっきまで考えてはいたけれど、質問したのは、だいぶ前の事なのだ。
それを今も覚えているゼロに軽く驚いた。

「あぁ。…俺が初めて食ったユリの手料理が、オムライスだった」
「そう言えば、そうだった…かも」
「お世辞にも、美味いとは言えない味だったがな」
「そこは美味しいって言うとこでしょ。でもまぁ、よく覚えてるね」
「覚えてるさ。俺は記憶力がいいんでな」

目を瞑り、口元に笑みを浮かべてコーヒーに口を付けたゼロを見て、わたしも笑った。
昔の記憶を呼び出して、あの時の事を思い出す。
お腹を空かせたゼロに、当初は得意じゃなかった料理をしたんだったっけ。
有り合わせの材料を使って作ったオムライス。
ケチャップの味しかしないチキンライスに、ぐちゃぐちゃの玉子。
見た目は最悪で、申し訳無い気持ちで眼前に出したら、ゼロは無言で全部食べてくれた。
もちろん嬉しくないはずは無かったし、これで料理を頑張ろうって思えたんだ。

「少しは料理上達したのか?」
「したよー。肉じゃがとか余裕で作れるまでになったんだから。そうだ、今度久しぶりに作ってあげるよ。オムライス」
「それは楽しみだな」

コーヒーも飲み終わったので、席を立ち、会計を済ませ店を出てゼロの隣を歩く。
いつにしようかな。なんて考えていると、ゼロが言った。

「あの時のオムライス、味はどうであれ、俺は結構好きだったぜ」

一拍遅れてゼロを見れば、楽しそうな顔をしてて、わたしはなんだか恥ずかしくなって俯いた。
ありがと、と小さな声で呟いたら、大きな手がわたしの頭を撫でた。


-fin-


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