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□終わりの日まで愛して
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「そろそろ、限界みたいだ」

そう呟いたエックスの静かな声が、スッとわたしの耳に入り込んだ。
それは二人で、今では数少ない自然に立ち寄り、決して大きくはない湖のほとりで腰を落ち着かせていた時だった。

限界?なにが?
エックスの言葉に問いかけたけれど、本当は何が限界なのかなんて、とっくに分かっていた。
少しずつ、透け始めるエックスの身体。
彼が目の前から消えて、二度と姿を見ることが出来なくなるのは覚悟していた。
なのに、わたしの心は物分かりが悪いみたいで、嫌だと叫んでいた。

消えないでよ。そばに居てよ。わたしを置いてかないで。

言葉にしなくても、エックスには分かっているらしく、眉尻を下げて困ったように笑っていた。
それを見て、胸がグッと痛くなり我慢していた涙が溢れた。

「泣かないって、決めてたのにっ…!」
「僕のために泣いてくれてありがとう、ユリ…」
わたしの涙を拭うエックスの指。
ゆっくりと目元を撫でるそれが、段々と薄くなっていく。

「本当に、消えちゃうの…?」

涙でグズグズになりながらそう言えば、エックスはわたしを抱き締めた。

「ごめんね、ユリ…。僕も嫌なんだけれど、こればかりは仕方ないんだ」
「分かってるよ。頭では分かってるけどっ、離れたくないっ…」
「…僕も、君と一緒がいいなあ」

嗚咽を抑えることが出来ないまま、ぼろぼろと涙を流すわたしの背中を、子供をあやす様に撫でられる。
わたしもエックスの肩に顔を埋め、彼の背中に腕を回して隙間を無くすように抱き締めた。

「ユリ」
名を呼ばれ顔を上げると、エックスを通して後ろの景色が見えるまでに、彼が薄くなっていた。
視界が歪むのが煩わしいのに、止まってくれない涙。
拭うのに忙しいわたしの腕を掴んで、エックスはそっと、額と額を合わせた。

「…えっくす?」
「僕と君は、存在する場所が違うけれど、これからも繋がってるから」

額を離したエックスに、そのまま唇を奪われ、一瞬のことで目を閉じるのを忘れていたわたしを見てエックスは微笑んだ。
そして、リップ音を残して彼は慈愛に満ちた顔をして消えてしまった。


それから、その場から一歩も動かないわたしの元にハルピュイアが迎えに来た。
彼にはすべて分かっていた様で、「ユリ様、参りましょう」と声をかけられ、わたしは新たな未来へと歩き出した。


-fin-


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