book.

□彼らの日常
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「…なにをしている」
「死人ごっこ」
「そうか、そのまま死んでろ」
「だが断る!」
「黙れ」

胸にケチャップを塗りたくり、部屋のど真ん中に寝そべっていたユリが起き上がった。
ここに来れば、毎回下らないことをしているこいつは本当に馬鹿だと思う。
前回は、縄を自分に巻き付けて転がっていたし、前々回は、逆立ちして牛乳を飲んでいた。
どこからどう見ても変人なこいつを相手にする俺も俺だが、他の人間とは違い、少しは信用できる奴なのだ。

「いらっしゃい、フォルテ。とりあえずコピーロイドに入りなよ」

言われた通りにコピーロイドに入ると部屋中がケチャップの匂いで充満しており、思わず顔を顰めた。

「怖い怖い。眉間に皺が寄ってますよフォルテさん」
「貴様は早くその格好をどうにかしろ」

いまだケチャップまみれのユリにそう告げれば、忘れてたなどと笑いながら脱衣所に消えた。…屑が。
換気のために窓を開けると、風が入り込み、ケチャップの匂いが薄れていく。

「ひぃ!寒い!ここは南極か!?」
「…少しは落ち着けないのか」

着替え終わったユリが身を震わせながら、窓を閉めた。
室温が下がったようだが、この馬鹿の自業自得だ。
すると、寒い寒いと嘆いていたユリが、いきなり俺に抱き着いてきた。

「…何の真似だ」
「暖を取ってます。フォルテさん温かいですね」
「ふざけるな。さっさと離れろ」
「ケチな男はモテないんだぞっ」
「…今日が貴様の命日だ」
「ごめんなさい!まだ生きてたいです!生きさせてください!」

いまの命乞いの言葉は、先程まで死人の真似事をしていた人間の言葉なのだろうか。
渋々と俺から離れたユリはソファに座り、その隣を軽く叩いた。
…座れと言うことか?
仕方なく座ってやると満足したのか、ユリはムフフと笑った。気持ち悪いことこの上ない。

「あ、そういえばどうだった?びっくりした?死人ごっこ」
「まだ言うか。実にくだらなかった」
「えー、リアリティが足りなかったかな…」

こいつはなにを目指しているのだろうか。
隣で腕を組み、うーん、などと唸っているユリを無視し、テーブルの上のくっきーとか言う菓子を摘まみ、馬鹿の口に突っ込んだ。

「ぶっ!!」
「…フッ」
「ちょっといきなり何してくれてんすか!しかも笑った!せっかく、どうリアリティを表現出来るか悩んで……あ、おいし…」

サクサクと、くっきーを咀嚼するユリから、砕けた破片がボロボロと落ちていくのを見ながら思う。
顔はそこそこマシなのだが、言動が残念すぎる。
どうしたらこのような人間になるのかわからん。
また、くっきーを摘まみ口にしようとすると、ユリが真面目な顔で俺の名を呼んだ。
こいつが真面目な顔をするなど珍しく思い、次の言葉を待つ。

「……次は、マシュマロを何個口に詰められるかやってみようと思うんだけど、どう思う?」

真面目な顔でくだらないことを聞く馬鹿の言葉に、摘まんでいたくっきーが砕け散る。
あー、もったいないと笑う馬鹿の頭を叩いた俺は間違っていない筈だ。


-fin-
→アトガキ

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