book.
□お前の未来は俺がもらう
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ある日俺は、面白い人間に出会った。
その人間の名はユリという。
ユリは新しい記憶を覚えることが出来ない、記憶障害を患っていた。
まさかと思い、時間を置いてまたユリの前に現れたら、見事に俺のことを忘れていた。
こんな人間に出会うのは初めてだった俺は、気が向けばユリに会いに行くようになっていた。
そして今日もユリに会いに行く。
見慣れた道を進んでユリのパソコンの電脳に入るとそいつはいた。
「ユリ」
「あ、えっと…はじめまして、じゃないですね。こんにちは」
名前を呼ばれ、初めてじゃない事を察したユリは、俺の目の前に座った。
「あなたの名前は?」
「…フォルテだ」
「フォルテさんですね。ごめんなさい。いつも覚えられなくて」
ユリはいつも謝る。
困ったように笑うこいつを見て、胸が痛んだ。
…なんだこれは……
慣れない痛みに黙っていると、ユリが心配そうな顔で大丈夫かと聞いてきたから心配はないと返してやった。
そうすれば、ユリは安心した顔で笑う。
俺はこの顔を見るのが気に入っていた。しばらくすれば痛みも引いていき、何事も無かったかのように正常に戻った。
「そうだ。フォルテさんは、いつもここに来てくれてるみたいなので、あなたの事教えてください!」
いきなり思い付いたのか、ユリはそう切り出した。
だが俺は、それを断った。
「貴様に教えてやることは何も無い」
「え、どうしてですか?」
どうして。
そう聞かれて答えに困った。
俺はとある科学者に作られた。
だが、ある事件でその科学者に見捨てられ、人間のことを憎んでいる。
だから、その復讐をするために力を集めている。
そう言ったらこいつはどんな反応をする?
怖がる?軽蔑するか?
いろんな奴にそういう目で見られてきたが、ユリにそう見られることを恐れる俺がいる。
どう答えようか悩んでいると、ユリは言った。
「困らせること言ってしまってごめんなさい。でも例え、フォルテさんが悪い人でも、わたしは嫌いになったりしませんよ。だって、すぐ忘れちゃうわたしに会いに来てくれたり、嫌な顔一つしないですもん」
その言葉を聞いて胸がざわついた。
なぜ、そこまで俺を信用する。
もしかしたら、ユリだったら…
それから俺はユリのパソコンを後にした。
先程の事を思い出しながら、ユリのことを考える。
すると、胸の辺りがほんのりと温かく感じた。
これが人間の言う恋と言うやつなのかもしれない。
今までそんなの必要ないと思っていたが悪くない。
本当に面白い人間だ。
ユリなら少しは信用してもいいかもしれない。
「フッ…」
近いうち、また会いに行ってやろう。
そして、いま抱いてる気持ちをはっきりさせてやる。
俺はそう思いながら、どこまでも続くインターネット内を進んでいった。
*fin.
→あとがきという名の言い訳