book.

□きみの温かさを知る
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ほぅ、と吐く息が白い。
それを追いかけるように見上げると、空気に溶けて見えなくなった。

昨晩降った雪が辺り一面を覆い、軽く銀世界になっていて綺麗だ。

マフラーに顔を埋め、手にはモコモコの手袋を。
行き交う人々を目で追った。

すると、ポケットの中で携帯端末が震え着信を知らせた。

「もしもし」
「あ、ユリ?ごめん、ちょっと遅くなりそうなんだ。だから、近くのお店に入って待っててくれるか?」

相手はエックス。
待ち合わせをしている相手で少し遅れるみたいだ。

いつもは時間通りに来る彼なのに、遅れてくるなんて珍しい。

「そっか、わかった。でも大丈夫、このまま待ってるよ」
「今日は寒いから駄目だ。風邪を引いてしまうかも知れないだろ」

心配性な彼らしい言葉で、心が温かくなった。

「平気だよ、わたしそんなに弱くないし」
「…まったく、仕方ないな。すぐに行くから、もう少し待ってて」

その後、2、3個言葉を交わして通話を切った。


あと少しでエックスに会える。

正直身が震えるほど寒かったけど、いつもここで彼を待つのがわたしの決まりになりつつあったから全く苦じゃなかった。

時間を確認し、温かい飲み物でも買いに行こうと思ったら知らない男の二人組に話しかけられた。

…嫌な予感がする。

「ねぇ君暇?よかったら俺たちと一緒に遊ばない?」

やっぱり。ナンパってやつだ。
こういうのは相手にしないのがいいけど、逆上されても困るので丁寧に断ろう。

「誘ってくれてありがとうございます。でも、待ち合わせしてる人がいるんで遠慮しときます」
「そう言ってるけどさ、ずっとここで待ってるよね?さむいし、そこの店でお茶でもしようよ」
「行き違いになっても困るんでここで待ってます」

じゃあさー、とか、連絡先交換しようよ、とか言ってきた男達にいい加減イライラしてきた。

どうにかこの場を切り抜こうと思った時、

「ユリ!」
「エックス!」

ようやくエックスが来た。
少しだけ息を乱したエックスは、わたしの目の前にいる男達に向き合った。

「おれの彼女に何か用ですか?」

なんか雰囲気が少し黒い気がする。
一緒にいる人にしかわからない位の微々たる変化だけど、いつもと違う。

「へー、お前この子の彼氏?背も小さいし弱そうじゃん」
「…質問に答えてください。ユリに何か用ですか?」

わたしは察した。
これはやばい。

このままだったらわたしたちじゃなく、男達が危ない。

「エックス!行こう!」

すくさまエックスの手を引いて、その場から逃げた。
後ろを振り向いても男達が追いかけてくる様子は無くて安心した。


暫く走ってたら、いきなり手を引かれて後ろにつんのめり、そのままエックスに抱き締められた。

「え、エックス?」
「よかった…」
「……」

抱き締められて気づいた。
エックスの体が震えていた。

腕を回して背中を擦ってやると落ち着いたみたいでそっと体を離してくれた。

「大丈夫?」
「ごめん。…止めてくれなかったら大変なことになってたかも…」

エックスも自分で大変なことになりそうだってことに気づいていたみたいだ。

でも、こんなに弱々しく言うエックスを見るのは、初めてで驚いた。

「いいよ、助けようとしてくれたんでしょ?何も無かったんだから大丈夫だよ。あとわたしもごめんね。エックスに心配かけちゃった」
「おれ、ユリが大事なんだ。だから君に何かあったらって思ったら、怖くて…」

手袋をはずし、泣きそうな顔をしたエックスの手を握った。
物凄く冷たくてわたしの体温が奪われていくけどそんなの気にしてられなかった。

「わたしは、ずっとエックスと一緒にいるよ!わたしだけじゃない、ゼロやアクセルも!だから、そんな悲しそうな顔しないで、ね?」
「…ユリ……」

笑ってやれば、エックスも笑ってくれた。

わたし、エックスが笑ってる顔が一番好きだよ。

そう言って、手の握る力を強めるとエックスも握り返してきた。

その手はさっきよりも温かくなってて、まるでエックスの心の様だと思った。


*fin.


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