book.

□その温もりを分けて
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「フォルテさん」

名前を呼んで、後ろから抱き着いてみた。
振り返ったフォルテは、これでもかと眉間に皺を寄せた。

「……やめろユリ。何の真似だ」
「あのー…ちょっとぎゅーって……いいですか?」
「聞く前にするな。離れろ」
「うーん……嫌です」

振りほどく様子もないし、気にせず続行する。
……おや? 何か殺気が……

「貴様……!」
「ひいいすみません、調子に乗りました〜……」
「ちっ……そこまでして俺にくっつきたいのか。何か理由があるのか?」

理由……理由か。
なるほど、フォルテを納得させる理由を言えばいいんだ。

「! は、はい、そうなんです」

理由なんて特になかったけど、元気よく返事をしてみた。
怒られたくないので今から考えましょう……。

「えー……えっと、そう! 実はちょっと寒くて」
「……寒いのか」
「はい。だから体温を分けて貰おうかなって……」

これはいいアイディア!
我ながら良いことを思いついたものだ。
でも、電脳世界で寒さを感じるなんてことある?うーん、まあいいか!

「……すきにしろ」

「! ありがとうございます!」

意外とすんなり受け入れてくれて、拍子抜けだった。

「暖まったらすぐに離れろ。いいな」
「はい!」

よしよし。
なんとか上手くいったようなので、心の中でガッツポーズ。
待ってましたとばかりにマントの中に潜り込んだ。

5分後。

「……まだか」
「まだです!」

10分後。

「おい、そろそろ」
「まだまだ寒いです!」

15分後。

「もういいだろう」
「まだまだまだですー」
「……適当に返事をしているのか?」
「えっ、いえいえ! そんな!」

20分後。

「……ユリ、さすがにもう限界だ」
「……」
「?」
「……」
「……寝るな!」
「わーっ!」

……はっ、いけないいけない。
安心して寝てしまった。
フォルテが今にも私を吹っ飛ばしそうなオーラを醸し出しているので、さすがに離れることにした。

「……あれ? フォルテさんなんか顔が赤いような……?」

もしかして、私よりも暖まっちゃったのかな?むしろ暑いのかな?
ちょっと強く抱き締めすぎたのかも。
顔に出さないから分からなかった、フォルテも寒かったんだ。

「っ、黙れ! それ以上近づくと貴様を消す!」
「で、でもでも。とっても暖かかったですよね……?」
「……。……まあ」

やっぱり寒かったんだ。
もう、素直に言ってくれればいいのに。

「ふふっ、またお願いしますね!」
「……気が向いたらな」


*fin.


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