book.

□勝てる気がしない
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とあるハンターベースの一室。

そこには書類整理に手を追われる、二人の男女の姿があった。だがそれも、終わりに近づいた様子でその部屋の雰囲気が和やかに変わろうとしていた。

「…やっと終わったぁ…」
「……」
「よくこんなに溜めれるものだよ。ねぇ、ゼロ?」

わたしの嫌味にすまん、と言ったイケメン。
別に謝って欲しい訳じゃないのだ。
謝ったってわたしの休みは戻ってこないのだから。

なんで休み返上で仕事をしているのかと言うと、毎度の事ながら溜まった締切間近のゼロの報告書が原因だった。

いつもならエックスが手伝ってくれるんだけど、エックスはアクセルと任務で遠出していた。
締切が明日までの報告書が沢山あって、ゼロ1人じゃ到底間に合わないからと、わたしに白羽の矢が立ったのだ。

エックスに頭を下げられ、世界を何度も救った英雄に頭を下げさせてる女性ハンターなんて、傍から見ればシュールだったに違いない。

仕方ないから、次の休みに最近流行りのカフェのパフェを奢らせる約束を取り付けた。
もちろんゼロに。


「エックスも大変だねー。親友の書類を手伝ったりしてさ、自分も忙しいだろうに」
「最近は忙しくて出来なかっただけで、いつもはちゃんと提出している」
「嘘つけ。毎回手伝って貰ってるじゃん。少しはエックスを見習え」
「…あいつは真面目過ぎるんだ。もっと肩の力を抜けば」
「あんたは抜きすぎなんだよ!」

最近はあの頃と比べて平和になったけど、イレギュラーがいなくなった訳ではない。

度々わたしも任務に出向くけど、エックスやゼロほど忙しくはなかった。

世界の危機を何度も防いできた彼らに頭は上がらない。
けども、

「…休憩するか」
「さっき休憩したばっかりですけど?」
「いいだろう。あとはこれだけなんだ」

ゼロはそう言って手元の報告書を指差した。
本気を出せば出来るはずなのにこの人はやらない。

S級ハンターが聞いて呆れる。

ゼロにガンを飛ばし睨むけど、どこかに行ってしまった。
イケメンだからって、何をしても許されるなんて思わないで欲しい。

イケメンムカつく。
目の保養だけど。
仕方ないから、自由人の卓上にある書類もやってしまおうと思い手を伸ばす。

「あれ…?」

おかしい。

ちゃんと確認しようとペラペラと紙を捲るけど、その報告書はすべて終わっていた。
しかも一字一句誤りもない。
そして、わたしは一瞬で理解した。

「……」

思わず無言になってもおかしくないはず。
あの人は、わたしを騙していたのだ。

なんで?
それだけが頭の中を占める。

「なんだ、気づかれたか」

わたしのモヤモヤとした思考を他所に元凶が帰ってきた。

気づかれたかって、悪びれもない様子に悪態をつかずにはいられず、一気に捲し立てた。

「ちょっとゼロ!?どこに行ってたの、じゃなくて、これ、なに!?全部終わってるじゃん!!今までのなんだったわけ!?わたしの半日返せこの野郎!」
「何をそんなにカリカリしてる。これをやるから落ち着け」

わたしの手には冷たく硬い感触。
柑橘系の炭酸飲料。

振り替えれば、ゼロはもう一本の栓を開けて口につけていた。
その動作でさえ様になる。ほんとムカつく。

「……」
「飲まないのか?」
「飲むもん!ゼロの馬鹿!」

乱暴に栓を開けて一口飲む。
口に広がるシュワシュワとした舌触りと柑橘の風味。
今までのモヤモヤ感が引いていくのがわかった。

悔しいけど美味しい…。

わたしの好きな物を知っている目の前の金髪野郎が憎い。

「…すぐ終わるなら、わたしいなくても良かったじゃん」
「そんなことはない。助かった」

目の前で金を揺るがす男にわたしは脱力した。
こんな人を相手にするエックスが本当にすごいと思う。

もうなにもかもがどうでもよくなって、わたしは嘆息した。


*fin


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