book.
□あたたかな手
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どうしよう。完全に逃げ遅れた。
いきなりの襲撃で平和が一変し、周りには建物だった物の瓦礫や何かだった物の破片が転がっていた。
息が絶え絶えになりながら後ろを振り返れば、イレギュラーが追いかけてくる。
生身の人間であるわたしが機械から逃げ切れるなんて思わないけど、生きたいから逃げる。
でもそろそろ足も心臓も限界だった。
「あっ…!」
何かに躓いて派手に転んだ。
早く立ち上がって逃げなければいけないのに足が動かない。
転んだ衝撃で手と足から血が滲み出た。
追いかけて来ていたイレギュラーが、イカれた笑い声を発しながらジリジリと確実に距離を詰めてきた。
もうダメだ。目の前が歪む。
誰か…助けて…っ!
イレギュラーが得物を振り上げるのが見えて覚悟を決めた。
もっと生きたかった、そう思いながら目を瞑り、来るであろう衝撃を待っていると、自分からではない所から鋭い斬撃と断末魔が聞こえた。
恐る恐る瞼を上げると、赤と金。
すごく綺麗だった。
ふと、前に聞いた『赤き鬼神』という言葉を思い出した。それが目の前に立つ赤なのだと確信した。
「おい、無事か」
赤が振り返り言った。
それと同時に金が揺れた。
無事。わたしは助かった。
「…ふ…うぅ……」
助かったとわかった瞬間、止まっていた涙がまた溢れた。
助かってよかった。怖くて怖くて仕方なかった。
嗚咽を漏らすわたしの頭に何かが乗った。
それが手だと分かると酷く安心した。
「…もう大丈夫だ。立てるか?」
そう言いながら頭を撫でる赤に、わたしはただ泣きながら頷く事しか出来なかった。
*fin.