short(dream)
□最近のハマり【二宮和也/裏】
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男性は床に倒れ込み、逃げるように店から出て行った。
「…ケガない?」
驚きのあまり口元を押さえて立ち尽くす彼女の方を見る。
「おきゃくさまっ…!」
彼女は目に涙を浮かべ、俺に駆け寄る。
「私なんかより、お客様はお怪我はありませんか…?あ…マスクに血が…」
彼女は、マスクを外そうと手を伸ばす。
まずいっ…!!
「あ、いや!俺全然大丈夫だからっ!!じゃ、俺戻るわ!気をつけてね!」
そう言い残し、俺は自分の個室へ戻って行った。
「あぶね〜…」
マスクを外すと彼女がいう通り、思い切り血が滲んでおり、口元を手で拭えば、まだ止まっていなかった。
でも、彼女には手当てをしてもらうことは出来ない…だって俺はアイドルだから。
もし、バレちゃったりしたら人を殴ったなんて大きな騒ぎだ。
「ティッシュないかな〜」
−コンコン−
個室のドアを叩く音。
俺は慌てて血まみれのマスクを付け、「どうぞ」という。
「失礼します」
入って来たのは怪物くんさんだった。
「あ…怪物くんさん!どうしたの!」
「お客様の手当てをしたくて…あと、お礼もしていなかったので…」
彼女の手元には救急箱がある。
「いや、ほんとにいいから!!俺もう血止まったよ!」
こんな至近距離だといくらマスクや帽子しててもバレる…!
「二宮さん。」
「え?」
キョトンとする俺に対し、優しく彼女は微笑んでいる。
「私…前に、あなたがお手洗いに行くときに、マスクを外して歩いてるの見ちゃったんです。それまでは全然気付いていませんでした。まさか、いつも私とお話ししてくださっているお客様が、二宮さんだなんて…思いもしませんもん。」
そういうと、彼女はそっと俺のマスクを取り、消毒液を当てる。
俺、そんな痛恨的なミスしてたの…。
「ここでの治療なら誰にもバレません。少し染みると思いますが、我慢してくださいね。」
「いてっ…気付いてたんだ…全然そうは見えなかったけどなぁ。」
「それは、もちろん、お客様がプライベートでいらっしゃってるからですよ。そんな時に「二宮さんですよね?」なんて言われたら嫌じゃないですか?」
さすが、この子って子は…
どこまでいい子なのよ。
「それに…人見知りな私にも話しかけて下さったり、仕事の事を褒めて下さったりとか…二宮さんとわかる前から、すごく私の支えだったんです。もし、私が「二宮さんですよね」って言ったらもうここには二宮さんは来てくださらないだろうなって思って…。私、二宮さんのこと…好きなんです…っ」
顔を赤らめ、うつむきながら言う怪物くんさん。
その姿は俺の中の理性を乱した。
「ねえ、怪物くんさんって下の名前なんて言うの?」
突然の質問に、驚いた表情を彼女は浮かべる。
「えと…ヤッターマンです。」
「ヤッターマンか…」
俺は治療するヤッターマンの腕を引っ張り、一気に抱きしめる。
「俺も、ヤッターマンの事好きだよ。」