長太郎受けメイン

□先輩たち専用性処理係
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翌日、朝から室内の雰囲気は淀んでいた。
昨夜から人が変わったような菊丸さん、行為を目撃した大石さんと宍戸さん、そして俺──……。

「大石、朝ごはん行こうぜ〜」
「あ、あぁ……。今日は珍しく早いな」
「うんっ、なんだか身体が軽いんだよね」

黄金ペアの二人は、あんな事があったとは言え、もういつも通りの会話になっている。
さすが全国ナンバーワンダブルスペア、と尊敬するべきだろうか。
昨日宍戸さんと、ずっと一緒にいようと約束したので、黄金ペアから遅れて部屋を一緒に部屋を出た。
そこで、異変に気づくまでに時間はかからなかった。

「っ!」
「な、なんだよこれ」

部屋の前には、なんと開封されたコンドームが落ちていたのだ。
女性の姿が少ないスポーツの合宿所で、コンドームが落ちていたら、見た者が妙な憶測を立てるかもしれない。
宍戸さんはそれを素早く拾い、急いで部屋へ戻った。
早速捨ててきたのか、再び目の前に戻ってきた時には、宍戸さんの手からコンドームは無くなっていた。

「一体、誰がこんなことを……」
「さぁな、どうせあいつだろ……」

どうせあいつ、が誰を指すのかは、薄々勘づいてしまう。
練習前から億劫な気持ちになりながら、朝食を食べに食堂へと向かった。










本日もハードな練習が終了し、風呂も夕食も済ませた。
また、菊丸さんに異常性を感じ始めてから、二十四時間が経とうとしていた。
部屋の中にいるのは、トランプをしに遊びに行った菊丸さんを除いた三名だ。
大石さんは、壁際の机でノートに何かを書いている途中だけど、大石さんに事情を知られているせいもあり、非常に気まずい。
でもこんな時も俺は眠気を感じて、二段ベッドの上にいる宍戸さんに顔を出す。

「宍戸さん、俺もう寝ますね」
「おう、おやすみ」
「おやすみなさい……」

今日はもうゆっくり眠りたい。
そう思い、ベッドのカーテンを閉めて、目を閉じた。
夢の中へ入れば、菊丸さんに悩まされることなんてない。

──そんな気持ちを覆すのを、まるで狙ったようなタイミングで、部屋の扉は開かれた。

「たっだいま〜!大石ぃ、俺もう惨敗だったにゃー!」
「おかえり英二。不二たちは強かったか?」
「強すぎて反則もんだよ〜……」

昨日の狂気に満ちた菊丸さんとは違い、大石さんとの穏やかな会話が聞こえる。昨夜の態度が嘘のようだ。
菊丸さんが戻ってきたことで、心中が穏やかでは無くなったので、暫く目を閉じたまま、菊丸さんの言葉に耳を澄ましていた。

「あれ、鳳もう寝てんの?」

ふいに、俺の名前が出される。
胸がドキッと脈打ち、存在感を消したいがために、自然と息を止めていた。
──悪魔がすぐ近くまで迫って来ている。警鐘を鳴らすように、呼吸が早くなってきた。

「鳳〜、伝えたいことがあるから起きてよ〜」

何も聞きたくない!俺の名前を呼ばないでほしい。
部屋の雰囲気がさっきと一変し、冷たいものに変わったのを肌で感じた。
襲いかかってくる不安と寒気で、身体を抱いて息を潜めていたが、閉めていたカーテンが開かれ、恐怖でビクッと跳ねてしまった。

「おはよう鳳」
「お、……おはよう……ございます…………」

しゃがみ込んでカーテンを開けた菊丸さんは、目だけが笑っていなかった。
怖い、息が詰まるほどの怖気で声が出ない。
近くでイスの軋む音が聞こえ、大石さんが立ち上がったんだと分かる。

「英二、鳳くんは眠いんだから、起こすなよ」
「大事な話があるからいいじゃんかよ。大石も宍戸も、聞いといてね」
「なんだよ」

冷たい声音で淡々と話す菊丸さん。
宍戸さんは不機嫌そうな声でそれに答えた。
間を空けて、立ち上がった菊丸さんは、ズボンのポケットから携帯を取り出し、マイクのように持って口元へ持っていく。

「えー、この部屋で度々抜きあいっこしたり、SEXしてる宍戸くんと鳳ぃ。性欲溜まりすぎて大変ですねぇ。……それで昨日、ついに俺は鳳に手を出しちゃいましたぁ、拍手!」

冷たい声音から一転、一人盛り上がる菊丸さんに、この部屋にいる全員が恐怖している。
全員からそんな感情を持たれていると気づいていないのか、菊丸さんは楽しそうに話を続ける。

「絶対に他の人にバラさないって約束でヤり始めたのに、大石も宍戸も帰ってきちゃうんだもん。ビックリだにゃ〜。大石は途中で部屋から出ていっちゃったから置いといて、問題は宍戸だよ」
「……俺がどうした」
「絶対バラさない代わりに、性処理係として鳳を貸してって言ったよね。ちゃんとした答えもらってないんだけど」
「それについては、昨日駄目だって言っただろ」

二段ベッドの上から、苛立った声が聞こえる。
そうだ、このやり取りに関しては、昨日聞いた気がする。
へらへらと笑った菊丸さんは、向かい合わせのベッドに腰掛けて、わざとらしく笑顔になる。

「ここに証拠として、昨日の鳳の喘ぎ声を録音しといたんだぁ。宍戸との行為中に録ったって言えば、他の人は信じるよね。どう?二人の関係がぜっったいにバラされたくないなら……分かってるよね?」

と、握った携帯を、顔の前で楽しげに横に振るのだ。
録音なんて、いつの間に……!
さすがに怒りが心頭に達したのか、宍戸さんは二段ベッドの上から降りてきて、菊丸さんの胸ぐらを掴みにかかった。

「お前っ……何がしたいんだよ!!」
「専属オナホがあるからいいよなぁ、性欲発散できて。で、どうすんの?鳳を俺の性処理係にするの?しないの?」
「テメェっ……!!」

今すぐにでも宍戸さんが、菊丸さんを殴りかかりそうな、そんな不穏な空気が室内を取り巻く。
苦楽を共にしてきたダブルスの相棒が豹変して、呆然としていた大石さんは、悪魔の乗り移ったとは言え、殴られかけた菊丸さんから、そっと宍戸さんをひき離した。
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