Fate/twilight world

□れっつごー!らんさーとたんけんなう☆
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 ──僅かに、微かながら記憶から蘇った過去を払う様に目を瞑り、一息吐いてから彼等にばれない様に一時を飲み込む。

 正直、自分の身が人間ではないと彼が知ったらどうなるのか、私には予想が出来ない。順調に信頼を寄せてきているのは、行動から考えて分かるがばれたらどんな反応をするやら。エルキドゥは、元々キメラの下にいたのだし、私の事情も知っているから大丈夫だ。だが、ディルムッドはどうだろう。魔術師だと言っておけば大概は誤魔化せるだろうが、それがどれ程長く持つか……。

 再びカップを持ち、レモネードをひと口だけ飲めば、それらの不安を振り払う様に首を軽く横に振る。──今は、私が人ではないとかそんな事は後回しにすべきだ。ディルムッドが勝手にとは言え召喚された時点で、既に他のサーヴァントも召喚され、戦争の準備をしている筈だ。他の魔術師達は、実力も経験も積み重ねてきた強者ばかりだろう。そんなの相手に戦う為には、多少の小細工をせねばあっさり背後をとられてしまうが落ち。ならば、今のこの夜間の内に街の事を色々知っていた方がいいかもしれない。

 と、なれば善は急げ、だ。

「ディルムッドさん、早速で悪いんですけど、ちょっと街の探検しませんか!」

 にこっと効果音がついてもおかしくない程の満面の笑顔でそう言った私に、ディルムッドは不思議そうに首を傾げた。すると、エルキドゥがどこか嬉々とした声色で私のすぐ左隣に寄ってくる。

「それは、僕も同行してもいいのかな?」

「勿論!あ、でも暖かい恰好して行こう。風邪引いちゃう!」

「サーヴァントには風邪を引くといった病事は掛かりませんのでご安心を。 ……ですが、何故急に?」

「…私、ここに来たばかりで街の事を何も知らないんです。戦争中、隠れたり、人目につかないためにはやっぱり詳しい方がいいかなって。どうせですから、夕飯の買出しついでに!」

 どうでしょう、と私とエルキドゥがディルムッドの眼前まで迫っていけば、始めは吃驚していた彼も、ゆるりと柔らかい笑みを見せて頷けば、私達は顔を見合わせて大いに喜びあう。大勢とは言えないが、それでも誰かと知らない街の探検をすると言うのは、幾つになっても飽きないし、どこかわくわくしてしまうのがその実であった。

 暖かいベージュのニットと黒いショートパンツにワインレッドのタイツといった服に着替え、ふわふわの白いポンチョ風コートを羽織ってダークブラウンのブーツを履き、玄関の扉を開けて星空の下に駆け出す。

〔勿論、エルキドゥとディルムッドも、ちゃっかりあの男が用意していた服に着替えて貰い、完全に一般人に化けさせたのであーんしんです!〕

 一月の夜は寒い。だが、外の星の綺麗さは、街中では絶対に見れない宝石箱の中身だろう。

「ディルムッドさん、星がいーっぱいですよ!ほらほら、エルも早く早く!」

「マスター、子供みたいだ」

「主、これを!そのままでは手が冷えてしまう!」

 白い手袋を手に此方に小走りするディルムッドは、私の両手に手袋をはめる。なんかほんのり生暖かいが、きっと彼の体温が伝染したのかもしれない。

「ありがとうございます、ディルムッドさん!それと、エル!私はもう15才だし、子供じゃない!」

 むっと頬袋を膨らませて反論すれば、ディルムッドとエルキドゥが顔を見合わせてくすりと笑う。あれ、これ子供と思われてるのかな私。

「むぅ……ディルムッドさんまでぇ……!」

「あ、いえ…つい…。申し訳ありません」

 謝りながらも笑いを顔から消さないディルムッド。それはまるで子供を見る眼差しで、何となく星ごときにはしゃいだ自分が恥ずかしくなってくる。

 熱くなってきた顔を隠すように手袋をはめた手を口元に持っていくと、ぷいっと二人より先に歩きだす。

「ほ、ほら、早く街のに行きましょ!スーパーの値引き時間もあるし…」

 もごもごとそう言って中庭を抜けると、エルキドゥは小走りでついてくる。が、ディルムッドの足音はせず、かわりに彼からは、主、と私を呼び止める声が発せられた。冗談のつもりだったのだが、と謝る気ならば弁解しようかと振り返った私に、彼は申し訳無さそうな顔で言う。

「街の詳細の事をお調べになられる事には問題はありません。ただ……私にはこれが……」

 そう言って右頬を右手で押さえる彼。それがどういう意味なのか分からなかった私は、ほくろが何?と尋ねる。すると、彼は気まずそうに答える。

「これには、女性を魅了させる、謂わば呪いの様な効果があるのです。街に出るのは……」

 ──呪い。そう苦し気に言うディルムッドに、私は少しだけ考え込んだ。その力を消す事は、造作もないだろう。だが、それはあくまで一般的な女性にのみに限られる。女性のサーヴァントに呪いの効果が課せられて戦いが彼の思う戦いにならない、それを変えようにも、彼が今後もそれでいいと思えたらの話になるのだ。

 どうしたものかと悩んでいた大元の理由は、それだった。だが……。
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