Fate/twilight world

□れっつごー!らんさーとたんけんなう☆
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 至極、全うな質問。こんなことを彼に訊いたって意味はないが、それでも、サーヴァントが“何も”知らずに“自分の願いが叶うもの”だと思い来たのならば、そこから訂正しそれでも戦うかと問いたかった。言ってしまえば、どんな風に言っても彼に与えられたのは、死と言う選択のみ。召喚者が私であろうとなかろうと、彼の運命は変わらなかった筈だ。

 ───最も、その運命を変えられるのが私の強みなのだが。

 ディルムッドは、すぐに答えた。

「私には、聖杯に願う程の望みはありません。あるのは、ただ忠義を全うし、最後まで仕える事のみ」

 聖杯を捧げると言う名の勝利は、貴方に。真っ直ぐとした迷わぬ願いを口にした彼は、どこか謙遜的で、それでいて至って真剣そのものだった。言葉に嘘はなさそうだが…。

「願いを持たないなんて面白いね。まるで本物の騎士みたいだ」

「エル、失礼」

 そう、そうなのだ。エルキドゥの言う通り、彼はあまりにも控えめな事を望んでいる。だが、それは控えめに見えているだけなのかもしれない。本当は、根っこは違う。

 何となく、そんな違和感があった。気のせい、かもしれないが。

「…本当に無いんですか?聖杯への望み」

「はい」

再度の問いにも同じ反応が返り、私は首を二回ほど縱に振った。

「そうですか、それなら良いんですけど」

カップを持ち、再び紅茶を口に含み、胸の内に沸き上がった幾つかの疑問とともに飲み込む。

 さて、彼を信頼して深くは追求しないとして、このあとどうしようか。恐らく、彼は聖杯と繋がっている。この街の事に関してどれだけ知識が備えられているのかによるが、私が彼にその辺を丸投げってのもちょっと無責任と言うか、ね。

 そんなことを悩んでいると、彼はどこか不思議そうに、だがおずおずと私に顔を向ける。

「……何か?」

「あ、いえ……」



 ────ふむ。



「“どうして我が主は私の望みを素直に本心だと受け入れたのだろう”とか思ってます?」

「!?」

「わぁ、こんなに粗か様に顔に出す人久々に見たよ」

「エールー……?」

ちょっとエルキドゥの発言が度を越えてきてるぞ、本当に。

 ディルムッドは、図星と言わんばかりに驚いた顔をすると、エルキドゥの言葉に顔を俯けて申し訳なさそうに言の葉を紡ぐ。

「申し訳ありません…。本来、これまでの主と比べる等あってはならない事。……ですが──」

「──あまりにも信用するのが早すぎるって、思ったんですね」

「……はい」

 彼の思うことは確かに間違ってはいない。サーヴァントは、言ってしまえば英雄の霊魂。その魂の分霊とも言えるのが顕現しているそれだ。いち側面でしかなく、だが確固たる意思を持ってここにいる彼としては、戦いを経験している身として、裏切る可能性等を考える事だろう。信頼するには、まだ値しない段階で、何故信頼するのかと言いたいのだ。

 それに対する理由など、一つで十分だ。

「貴方は、私を勝たせるのが望みなんでしょう?そんな貴方を私が信頼せずして、貴方はどう戦うと言うの?」

「!」

 単純な事。彼が私に勝利を与えたい事が望みなら、私は、彼を信じて彼の為に魔力を消費するだけ。それだけで彼の士気も彼の力其の物も思う存分にフル活用して満足のいく勝利を私に捧げられる。

「貴方が主の剣となり盾となり、その手で勝利を主に捧げたいと望むなら、主である私は、貴方を信じて任せるだけ。──ね?」


 “簡単な話じゃないですか!”



 そう笑った私に、彼は酷く目を輝かせた。その目はさながら仔犬にも見える。希望に満ち溢れた瞳、新たな未来がくれる奇跡を信じる視線、これ以上にない幸せとでも言いたげな顔。

 まるで、少女達がアレに願った“奇跡”が叶った瞬間の、その希望の頂点とも言えるその目に、私は胸の奥に痛みを感じた気がした。










 ───私は、もう人間ではないのに。
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