Fate/twilight world

□1.じゃーん! せーはいせんそーさんかのあかしですよ☆って
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 ───崩壊した部屋で正座する美しい人形をそのまま人にしたような両性気質の顔の淡い緑の長髪の者と明らかに美人に部類されるであろう甘いマスクに右頬のホクロが特徴の黒髪の青年。その目の前には、今朝着替えたばかりの筈の真っ白なワンピースをボロボロなまま着こなす淡く琥珀色を帯びた長い銀髪の少女。

 少女は、真っ赤な瞳を開き、諦めた様に笑う。

「……エルキドゥ」

「……うん」

「サーヴァントに会って早々に宝具を展開する癖を治せとは言わない。言わないよ。だって悪気はないんだもんね、分かる、分かるとも。でもね」

 少女は、その場にへたれこみ、涙をのむとこれまで出したことのない泣きそうな声をあげた。

「部屋を壊すのだけは、勘弁して……。私に修繕のスキルはないのよ、エルキドゥ……」

「ご、ごめんね、マスター」

「いいの、大丈夫。全てはあの男が悪いの。あれが、あの忌まわしきニャルがこの魔方陣の情報を開示してた時点でなんかあるのは決まってた。……野郎、後でぶっ飛ばしてやるんだから……!」

 開き直って全ての元凶であろう“黒服の男”に恨みと怒りを燃やせば粗方の事は、もう勢いに任せて解決法を編み出すのが私流。最早、この少女に言葉は届かない。あの男は敵なのだ、諦めよう。

 ───と、まぁお分かりの通り。英霊がまさかの喚んでもないのに来ちゃった事件は全てあの男のせいと、これにて幕をおろすわけだが。

 全てを勢いでエルキドゥとともに正座して見ていた青年は、少しだけ戸惑う素振りを見せていた。それもそのはず。まだ15歳程の少女が自分以外の英霊であろう存在と親しげに話し、その上今その少女が自分のマスターかもしれず、聖杯戦争なんてモノに参加するのかと頭では何気にプチパニックが起きているのだから。

「はぁ……で、そこのおにーさん」

「は、はい!」

「ごめんなさい、この子容赦ないから……。怪我とかしてないです?」

 心配している。自分を。自分の事を、少女が。このホクロの魅了にかかっていないその平常のまま。

「っ心配は無用!この通り、いつでも準備はできています!」

 青年は、そう頭を下げて騎士のように片膝をついた。準備とはいかに、などと少女の中でははてなマークが浮かんだが、本人の無事と言う言葉を信じ、うんうんと頷いた。

「良かった。私、破壊は得意だけど治癒は苦手で…。駄目ですねぇ、サーヴァント喚ぶなら治癒くらい出来なきゃいけないのに」

 たはは、と気まずそうに笑う少女。青年は、不意に顔をあげ、その少女をじっと見上げた。その眼差しは、驚愕に染まっているものの、どこか期待を寄せるようなモノだった。

 少女はそれに気付いたのか否か、ニッコリ笑って手を後で組むと少しだけ腰を丸めて屈んだ。

「改めて。初めまして、英霊さん!私はトワイライト・紡希・グランドヘルンツ!気軽にトワって呼んでください!あ、この子はエルキドゥ。私と契約しているもう一人のサーヴァントです!クラスはランサー!仲良くしてあげてくださいね!」

「よろしく。あ、景気付けにエヌマ・エリシュするかい?」

「やめなさい」

 マスターと自分の前にマスターと契約しているサーヴァント。明るく子供らしいこの少女から魔術師特有の濁りが見えない。だが、確かに伝わる彼女からの魔力は、とても大きなものであった。

(……この少女は、一体…?)

 断言したっていい。この少女は、強い。それだけに、魔貌が効かないのだろう。だが、その強さを少女自身は気付いてすらいない。

 眩しい程の純情さ、純粋さ。その笑顔はどこにでもいる普通の少女其の物。それだけに、期待も大きい。

(……この少女ならば、きっと……)

 俺の忠義を全うすると言う願いを叶えてくれる、と。


 深く考え込んでいただけに、青年はじっと少女を見つめていた。少女がそれにき再び気付いた時、また眩しいあの笑顔を青年に見せる。

「ねぇ、貴方の名前を教えて?英霊さん!」

 光をそのまま人にしたような姿。それは目も眩むほどで、だがどこか暖かくて。

 青年は、一瞬のみ口許を緩め、直ぐ様あの真剣な眼差しへと変わると凛とした声で名を紡ぐ。




「サーヴァント・ランサー!呼声に応じ、馳せ参じた。──改めて、問おう。貴方が、俺のマスターか」






 ───聖杯戦争が、開幕する。
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