Fate/twilight world

□1.じゃーん! せーはいせんそーさんかのあかしですよ☆って
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___幕間の物語。



























 ───「ほう、ランサーか。全く、よくランサークラスに好かれるものよな、この娘は」


 とある国の王座。そこに、彼はいた。あの時、確かに召喚されたのはアーチャークラスの自分。だが、そこに今はいない。それだけに、今視ているそれは、自分の手ではどうにでもできない世界線上の事だった。

 手にもつ粘土板を徹夜で見すぎたせいか、視界がうっすらとぼやけてきたが故に、“いつもの様に”目の保養をしていたのだ。

「この相変わらずの危機感を忘れた腑抜けた顔よ。それでこの我を落としたと言うのだから、可笑しな話よなぁ……」

 この男がこれほどまでに軟らかな笑みを浮かべる事など滅多にない。それだけその少女が特別であり、特殊であり、気に入っているのだ。この王は。

 その少女を視ているだけで、疲れなんてもんはどこへやら。一度、その少女が笑えば一日の仕事はノルマ以上を叩き出す。その反面もしかり。少女が泣けば、顔こそ無表情を保ってはいるが、胸のうちはスッキリせず、どうにもできないが故のもどかしさで苛立ちっぱなしなのだ。

 そんな王が今視たのは、少女が新たに召喚したサーヴァントとの会話の一部始終だった。魔貌が効かないと驚くサーヴァントの顔は滑稽と言う以外に言いようがなく、そんなサーヴァントに笑顔を向ける少女には、その向けている相手が自分でないことにこそ不満があろうものの、絶えず笑顔でいる為に、つられて笑ってしまう始末だ。

 この少女に対する物を愛と言わずして何とする。

 事の発端と言えるそれは、まだ幼かった少女が最後に召喚したのが、この王であった事。幼い小娘がマスターなどと、王である自分に対する挑戦か侮辱かと若かりし頃の自分は大変激怒したものだ。が、その少女の側にいたのが運悪く、否、運良く我が朋友であった。そんな朋友に頼まれては断るにもいかず、朋友にここまでさせるほど価値があるか見極めようと思ったのが切っ掛け。

 結果、若返りの薬を飲み、子供となった自分は一日小娘の面倒を見る、と言う予定であった。だが、あろうことか娘を殺そうと雑魚が集り、たかだか娘一人に銃器戦という実に気に食わない事が起き、少女の両親を殺すという少女を絶望の淵に落とす様な事をやってのける非常な魔術師どもが群がり……。そんな悲劇的な現実に泣き、嘆き、肩を落として当然な娘は、決して嘆かず、涙を堪えて生きようとした。

 その様があまりにも憐れで、一人になった魔術師の家系の幼い主として気高くあろうとする様が実に気に入ったのだ。この娘は生かしておくべきと、そう感じた。それ故に逃がす手伝いをし、雑魚どもの相手までしてくれてやったのだ。

 ──まぁ、最後は泣かれて、仕方なしに迎えに行くとなかば求婚紛いの約束をこじつけて。

 あれがその先で誰を好こうが所詮は子供の約束。忘れていて当然。それを覚えていると言うのだから、また愛い。

 以来、迎えに行く日取りを頭では考えているにはいるのだが、事実、今ここにいる自分はどうやらあの娘の影響か、生きていた頃に戻った状態であり、今現在進行形で時と生を共にしている。このまま死に逝けば、また会えるかどうか。本人が望めば会うことは可能だろうが、あれはまだ自分の本来の力に気付いていない。

 千里眼越しの遠距離恋愛、と言うやつか。面白い。ここまで退屈を凌がせる事は、そう起こらんが故に、この様な事態を招いてくれた輩には特別な対応をしてやらねばな。

「──にしても、この娘はいつになったら危機感を覚えるのか……。視ているだけというのも、考えものだな」

 溜め息を吐きつつ再び仕事にありつけば、千里眼で視えていた娘は視界からその姿を消した。今頃は、新なサーヴァントとともに街の地形を散策に行っている頃だろう。夜は人目につきにくい。散歩には不向きだが、戦いの場を探すには最もな時刻だろう。

 そうは思うも、王は再び溜め息を吐き出し、その胸の内に徐々に溜まり始まっているモヤモヤとしたものをまた一つ溜め込む。


 ───あの聖杯戦争の聖杯は特殊だ。微力ではあるが、小聖杯になれる程度の魔力を持ったアインツベルンの人形が運び手。その見目を目の当たりにしたらば、あの娘は一体どのような反応をするのか、同時に、若造の我があの娘を聖杯の運び手と見やしないか。

 やり場のないモヤモヤが王の苛立ちに変わるのは、このあと数分後のはなしである──。
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