Fate/twilight world

□1.じゃーん! せーはいせんそーさんかのあかしですよ☆って
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 少女は走っていた。

鮮やかな金の髪の少年に手を引かれながら、黄昏時の陽に照らされて淡く琥珀色を帯びた銀髪を靡かせ、虚無感が漂う高い天井と横にも縦にも広い屋敷の通路をただ真っ直ぐに。少女の手を離すまいときつく握る少年の手は、僅かに汗ばみ、少女はそれを不安げに握り返す。

「ねぇ、どこにいくの?」

 少女の問いに少年は答えない。否、答えるだけの余裕がなかった。サーヴァントとして召喚されたは良かったが、召喚した少女が殺されるかもしれないという状況。齢10才程度の姿になっている彼としては、宝具を使って少女を護るよりも、少女を安全な場所に逃がす方が優先的だったのだ。

 少年が一頻り少女を連れて走った先で、淡い緑の髪の少年とも少女ともとれる人が、黒い門の前で手を振った。

 二人が彼のもとにつくと同時に、少年は少女の手を離す。どうして離したのか、この時すぐに理解しきれなかった少女が振り返れば、少年が笑って少女の髪を撫でた。

「どうしたの…?」

「……ごめんなさい、マスター。僕は、一緒に行けません」

 どうして、そう訪ねかけた少女の眼から我慢していた涙が溢れた時、少年は涙を拭いながら優しげな笑顔を崩さぬまま、少女に言った。

「誰かが足止めしなくちゃ、奴等にすぐ捕まってしまう。僕には君を護る義務がありますから」

 だから行けない、と。理由は簡単で単純だった。だからこそ、少女は余計に悲しくなって、護らなくていいと泣いたのだ。泣いてしまう程、少年が自分の為に傷つくんじゃないかと不安になってしまったのだ。そんな少女をみかねて、少年は小指を出す。

 ある約束をする為に。

「……じゃあ、僕とひとつ約束をしましょうか!」

「やくそく?」

「はい!」


 
 ──必ず、貴方を迎えに行きます。
 だから、その時は……──



 守れっこない約束だと、少女は知る筈もなく、酷く喜びながら頷いて承諾した。しっかり小指を絡めて約束をした後、少年に背中を押されて彼のいる場所に歩きだせば、後ろで笑っている筈の少年が背を向け、追いかけてくる何かを宝具をもってして倒していく。金色の空間の歪みから大量に現れる武器。

 この時、少年の顔は先程の優しげな笑顔とは違う、悪意を含んだ不敵な笑顔に変わる。

 勿論、少女がそれを見る筈もない。

 真っ黒な門が鈍い音をたてて開くと、そこへ吸い込まれる様にして入っていく二つの影。最後に振り返った少女が見たのは、少年の後姿が少年ではなく青年であった。後姿から漂うそのオーラは、どこか少年とは真逆の恐ろしさがあり、少女は隣を歩く彼を見上げて不安を漂わせる大きな二つの深紅を帯びた金色の瞳を向ける。

 彼は、安心させる様に笑った。

「大丈夫。信じて、マスター」

優しげな声。その言葉を受け、少女は振り返らずに門の奥へと進んだ。






 これは、記憶だ。私のじゃない、私の記憶とは別の誰かの記憶だ。何故なら、この記憶は私の持つ記憶と同じだが、私の記憶にはなかったものがある。

 私は、あの少年……否、青年の名前を覚えていない。それを覚えているのだとしたら、私と今も一緒にいる彼しかいない。

 それに気付いた時、門の奥の暗闇に混じって私の視界が黒くなる。


 ──刹那、赤い赤い夕日の色が、瞼をすり抜けて視界に広がった。
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