Fate/twilight world

□れっつごー!らんさーとたんけんなう☆
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(でも、こんなに落ち込んでるし……。一般女性に効かない様にすればなんとかなるよね)

 よし、と一人納得すると、ディルムッドの方に駆け寄って背の高い彼を見上げる。右手を下ろして此方を訝しげに見下ろすディルムッドに、屈むように手をちょいちょいと仰げば、左手で彼のホクロに触れる。

「あ、主?」

 突然の事で戸惑った様子の彼に、ゆるりとホクロを撫でながら口元を緩める。


 これは、呪いの契約ではない。


 彼がそう望むなら、私はそれを叶える。制約であるそれは、私との契約が切れた時点で効果がなくなってしまうという物であり、無限に続く呪いという訳でもない。一般人に効かないとなれば、彼がどんなに望んだところで彼の意思では解除できない。彼の心境が変わっても尚、契約があるかぎり続いていくそれは、今後のリスクにもなりかねない。

 それでも。

「……一般人に効かないとなれば、街に出られますよね?」

「? ………そんな事が可能、なのですか?」

「勿論!じっとしていて下さいね?今からやりますから」



“彼等には、これは只の顔の飾りにすぎず、彼の者等には、これは魔を持つ物であり、然しそこには、一片の悪意はなく、また善意もない”


 ──そんな呪いを被せれば、或いは。


 人には決して読めず、ただ“私達”だけが読める見知らぬ言葉を紡ぎ連ね、徐々に左手で触れているそれに与えられた物を、修正という形で私の魔力のベールを被せていく。硝子に被せるようにゆっくりと、陶器に触れるように優しく、冬の夜の水面に張られた薄い氷面に指先を滑らせるように。

 淡く指先に吸い上げられる魔力は、あまりにも微量だった。このホクロ自体には、呪いの効力は然程ないのだろう。彼の性格とこの顔面凶器なみの美麗さのある顔の整いが効力を高めているだけ、と言うことになってしまう。

(これ、この人に“一般人にはこの騎士みたいな事をしない様に”っていった方がのかなぁ……)

 呪いをかけ終わった後、徐に離れて苦笑を溢しながら「終わったよ」と言うと、彼はとても嬉しそうに、だがそれを照れた様に控えめに頭を垂れながら「感謝します、我が主よ」なんて言ってくれる。その姿に苦笑を溢す所か最早駄々もれで苦い顔をしてしまう私に、エルキドゥは満面の笑顔で顔を覗きこんでくる。

「言わないの?」

「だ、だってあんなに嬉しそうなんだよ?言えないよ…」

 ホクロじゃない、貴方自身が女性を落としてる、なんて。あんまりだ。──まぁ、取り合えずはホクロのバックアップは一般人には消したし、喋り掛けて騎士みたいな振る舞いしなければ問題ないだろう。

「じゃ、じゃぁ……行きましょう、か?」

「ハッ!」

「うん。でも、マスターは今のしなくて平気かい?」

「私?なんで?」

 だって、と続けたエルキドゥは、ディルムッドの右、私から見て左側にまわり、私を二人一緒に見る。

「……ね?」

「……やはり、これも必須でしたか…!!」

「なんですか、それ!どっから出したんですか、その覆面!」

 本当にどこから出したのか、まるで強盗犯の被るような覆面やら某殺人鬼がつけている様な面を手に悔しげに嘆くディルムッド。エルキドゥは魔女が着るようなフードつきのローブをニコニコしながら持っている。それもそのはず。主人公である少女は、全身が宝具レベルの美麗な少女。それを気付いちゃいない彼女はドン引きした顔で二人をじっとりと見つめるしかない。

「どこって、僕の部屋だよ?」

「捨てなさい!そしてディルムッドさんは何二つを見比べて迷ってんですか!」

「いえ、我が主の身の危機となれば、このディルムッド・オディナ、時など惜しまな──」

「惜しんで下さい!危機じゃないので惜しんで下さい、ディルムッドさん!」

 ほら、行きますよと言いながら二人の後ろにまわって背を押し、無理矢理歩ませる。「あぁ、主!お待ちを!」とか、「あははー」などと暢気な二人。なんでこんな事になるのかわかったもんじゃないが、このやり取りに終わりが見えないので仕方ない。

 こうして始まった街探検は、晩御飯の買い出しをついでとした街見学を目的に始まったはずだった。それが、まさか、あんなことになるなどと思う筈もなく。

 異例な者には異例な事が付きまとうのは当然で、この買い物で胃薬を買えば良かったと後悔したのは、恐らく三時間程後の事だろう。

 






 ───この時、どこか遠くで、誰かが微笑んでいた様な、そんな気がした。
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