文豪とアルケミスト・ゲームブック
□ヤンデレな文豪たちから逃げてみた。
小鳥の囀る朝。
「聞いているかニャ?特務司書」
「あっ、はい……すみません……」
ここは司書室。政府からの伝達役であるネコ(オス)に、私、特務司書はへコへコと頭を下げる。
「いやまぁ、謝るような事でもニャいのだが……もう一度言う、よく聞くように」
「ウス」
話を纏めるとこうだ。ネコは、今日は私に警告しに来たのだ。現在この図書館は『歪な歯車』集めを行っている。それは本の世界を浸蝕する忌むべきもの、よって文学書の中からそれを回収し、政府に届け出た上で破棄するのだ。
が、その歪な歯車の特性は本の中の世界を穢す、という事だけではない。ある特定の感情を増幅させる力も秘めているのだ。
「……それで、だ。このままこの図書館にいては、お前の身に危険が及ぶ」
「……あのー、ネコさん、話が見えないのですが?」
本当に意味が全く分からない。その旨を伝えると、ネコははぁ…と深い深いため息をついた。理解力のない司書ですみませんね!!!
「まあ……この図書館の地下室に保存されていたおびただしい数の歯車は、館長が全て回収した。だが……いくつか、行方の分からん歯車があるんだニャ」
「……というと?」
ネコはゆるく尻尾を振りながら呆れた目で私を見据える。一体、何が起きようとしているのだろうか。
「正確には3つ。3つの『歪な歯車』の行方が分からない。おそらくだが、文豪連中のうちの誰かがこっそり盗みだしたんだろう。たとえ数が少なくとも、それが文豪の近くにあればより特定の感情を増幅させてしまう」
「はぁ……文豪が歯車を盗み出す目的が分かりませんが。何しようってんです?」
「お前を我が物にしようとしている、としか言えニャい」
……待って?ねえ待って?今凄い言葉が聞こえてきたよ?
「ちょーっと待ってくださいネコさん……それってつまり……」
「本の中に引き込むか、あるいはその他の方法だな。歯車を盗んだのは、その力を借りて、お前を我が物にしたかったというのが理由だろう。お前を『あちら側』に引き込みたいという気持ちを抑える最後の理性を取り除きたかったんだろうニャ」
「ジーザス!」
私は思わずその場に膝をついて天を仰いだ。まあロココ風の天井しか見えないが。
「だから言ったはずだニャ。説明はもうこれでいいだろう?ほら、一応今日は自室にこもって図書館内を出歩くなと言ってはいるが、文豪たちに気づかれる前にさっさと図書館を出るニャ」
「了解っす……」
その時だった。
「な……!?」
机の上にあるパソコンの電源が、勝手に入ったのだ。そこに表示されていたのは------
【政府転移装置破壊まで、20、19、18……】
刹那、ネコが叫ぶ。
「やられたッ!司書、お前の足では間に合わニャい!吾輩だけでも政府に行って助けを呼ぶから、転移装置が復旧するまで3日の間生き残ってくれ!」
「えっ、ちょっ、はぁああああああ!?」
ネコはシュタッと司書室の窓から飛び降り、庭にある転移装置まで全速力で走る。私が窓から顔を出した時には、ネコの尻尾が転移装置の中に消えるところだった。
次の瞬間、パソコンから嫌な音がする。こわごわと振り返ると、黒い液晶に真っ赤な文字で【ERROR】と表示されていた。
「えっ、うわ、マジか」
キーをバシバシと叩くも、反応はない。これでは3日間の逃亡中、いろんな事が調べられないじゃないか……
「じゃあ端末は……」
政府支給の端末の存在を思い出し、ポケットを探る。
「……え、あれ?」
無い。無いのだ。
「……どこかに、忘れてきた……?」
えっと、確か最後に端末を弄ったのは昨日の夜。それは食堂で……
「……あぁ、そうか……食堂で志賀に没収されたんだった…」
現代っ子の悲しき性。食事中にもテーブルの下で端末を弄っていたため、額に青筋立てた厨番、志賀直哉に没収されたのである。
うわ私馬鹿か?
とりあえずまあ……何とかしなくちゃ。せめて端末だけは欲しい。うん、端末を探そう。
- 食堂に行く
- 志賀を訪ねる
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