小説

□Initium〜はじまり〜
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高校で草津と再会した時、「よろしく」と言って有馬が差し出した手は、握り返されることなく空を切った。親愛の情を示したつもりが、カラ振りに終わった。

何か、気に障るようなことをしたのだろうか。十年前のことは覚えていないなら仕方がないとして、これから共に生徒会活動をしていくのだから、出来るだけうまく付き合っていきたい。

その日、帰宅してからも、有馬は考え続けていた。

高台の一等地にある有馬邸は、敷地の広さだけでなく、ちょっと変わった建築様式で近在の人々の注目の的になっている。それは、日本国内ではめったにお目にかかれない、ヨーロッパ北部のゴシック様式だった。

外国を転々とするのが、有馬の父、というより有馬家代々の在り方だ。古来の高貴な家柄であるが、しがらみを嫌って、外に出て行くことを選んだためだ。

有馬の部屋も、外国生活で手に入れた家具や調度や服や小物が大半を占めている。

高校生になって久しぶりに日本暮らしをすることになったが、不便も多い。理系科目は万国共通なので何の苦労もないが、考え化や生活習慣に直結しがちな文系科目では、思いがけない勘違いや思い込みに悩まされることがある。

そう言えば。

日本人は、あまりスキンシップをしないものだと教わった気がする。

(握手する習慣なんて、ないんだっけか……)

子どもの頃とは違って、今や誰もが羨んで見惚れる均整のとれた長身の持ち主だ。整った顔立ちもあいまって、完全に大人の男に見えてしまう。だから、一人前の紳士たる自覚を持って行動しなければならない。

お坊ちゃまが不用意に笑いかけたりすると、若いメイドたちが浮足立って仕事になりません、などと乳母からも言われていた。その時は、めんどうだな、と思っていただけだったが。

自分は日本のことを、よくわかっていない。文化や習慣の違いは、人間関係や意思の疎通に甚だしく支障をきたす。このままでは、いけない。

昔読んだスポーツものの少年漫画では、キャプテンと副キャプテンは、夫婦のように分かり合って、試合中でも目と目で理解し合っていたものだ。

(つまり、生徒会で言えば副会長の俺は、女房役……?)

何か、違う。やはり、体育会系の 趣味や楽しみを追求する部活動と、眉難高校という組織全体を取り仕切って生徒による自治を司る生徒会とでは、同じようにはいくまい。

何かないだろうか。自分が指針とするのにふさわしい、モデルケースが。

そう言えば。

(いきなり、「紅茶を淹れろ」と命令されたっけ)

閃いたイメージの単語をパソコンにン入力して、検索してみる。すぐに何件もの記事がヒットした。

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