小説
□Post festum〜宴の後
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カエルラ・アダマスこと地球征服部は、バラエティ番組を盛り上げるための仕込みとして利用されていた――――そんな事実が明らかになった。
シュヴァリエ・アージェントとして、生徒会副会長として、俺は……有馬燻は、どうするべきだろうか。
状況を確認してから、「普通ならこうするだろう」と判断した上でないと、行動に移せないタイプなんだ。なもんだから、マス研に制裁を加えるにも阿古哉に先を越されてしまった。
構えたこぶしのやり場に困りながら、チラッと隣に立つ横顔を見やる。阿古哉は、黙っていると本当に綺麗なんだよな。
ナルシストな生徒会のペット……って言うと本人が怒るから、愛玩動物……でもなくて、可愛い後輩の阿古哉は、どう思っているだろう。美意識の塊だから、さぞかしショックを受けているかな。と思いきや。
「腹立たしいですけど、済んでしまったことは仕方ないです。ありったけの憎しみをこめて城崎を殴り倒した上は、忘れることにしましょう」
意外にサッパリしているな。阿古哉のこういうところは、とても男前だと思うよ。だから。
「俺は、そうすぐには割り切れないよ……」
阿古哉の傍らで、頭を抱えてしゃがみ込む。
「あっ、有馬さん?!」
心配そうな声を上げて、肩に置いてくれる指先は、白くてすべやかで、桜貝みたいな爪が光っている。
「隠しカメラで撮った映像を、宇宙中継していたなんて……」
「そんなにショックだったんですね……」
阿古哉が、俺を心配してくれている。
「大丈夫です。地球では見られないといいますから。家名に傷がついたりはしませんよ」
「そうじゃなくて……これまで阿古哉にしてきたアプローチのあれもこれも、見られていたかと思うと……」
「何なら、データをすべて買い取ってきますから。ね?」
手のひらで顔を覆ってうつむく俺を心配するあまり、話は聞いてないみたいだな。
「一緒にお茶したり、風呂に入ったり、下校したりした姿が、何もかも……」
「……はい? アプローチ……?」
ほら、やっぱりね。阿古哉はもともとパッチリした瞳を、いっそう大きく見開く。
「阿古哉、わかってなかったでしょ」
「は……はぃいいい?!!!」
ひたすら戸惑っている阿古哉は、なかなかの見ものだ。
「ほら、夏休みに海辺のリゾートで一緒にスパに入ったでしょ。俺が、前も隠さないでザバザバ湯から出入りして」
あの浴室の構造だと、カメラからは死角だったはずだ。有馬の血筋は、その高貴さゆえに命を狙われることも多かったので、こういったことには敏感になるよう、幼少の頃から教え込まれている。だから、普段はしまりなく見られがちな垂れ気味の瞳が、ここぞという時には鋭く分析し、注意を怠らない。
「阿古哉にだけ見えるように角度を測ってたんだよ。けっこう自信あるんだけど、気付いてくれなかったよね」
「〜〜〜〜っっ……」
阿古哉の脳内処理能力は 負荷に耐えきれず、悲鳴を上げっぱなしだ。俺は、なおも言いつのる。
「阿古哉の、見そこねちゃった。徹底してバスタオルでガードしてたもんね」
何か、とてつもないことを伝えられているような気は、しているみたいだ。しかし阿古哉は、別の方向に行ってしまう。俺にとって、いささか残念ではあるが。
「あ、あなたは小学生ですか! そんなもの見せ合いっこして、比べ合って悦に入るなんて下品……美しくないです!」
下呂の血筋は、ひたすら優雅に美しいものだけを追い求める貴族肌なのだから、この反応は無理もない。
「えーー。俺は、もっと見てほしいし、阿古哉にも見せてほしいんだけどなぁ」
他の人間に笑いかけたり、楽しげに話したり……してほしくない。全宇宙に、阿古哉は自分のものだと見せつけてやりたい。それを、このかわいい後輩にどうやってわからせようか。
「阿古哉は美しいからね……さぞかし、どこもかしこも完璧なんだろうな。凛々しいモノをぶら下げて、惚れ惚れするようなフォルムと色合いで、口づけを贈りたくなるような皮膚に包まれているんだろうなぁ。指先で触れると、若々しい弾力が返ってきて……刺激を与えているうちにますます……」
「うわあああ! 変な想像、しないでください!」
「なに、自信ないわけ?」
「なっ、ないわけないでしょう!!」
ほら、挑発に乗ってきた。そこで、なおもたたみかける。
「だよねー。こんなに男前なんだから、鑑賞に値する美しさに決まってるよねー」
「当然です!」
とうに真っ赤になった顔のまま、阿古哉はベルトに手をかけて、ファスナーを下ろし。俺の誘導に、まんまと乗せられて。
「ほら! いくらでも鑑賞して、ひれ伏してくださ……」
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