短編
□上がる唇(内藤)
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どれだけ歩けば
たどり着くのだろう
-上がる唇-
届きそうになったベルトは
まだ遠かった
遠くからリングを見ると
キラキラと輝いた世界がそこにあった
羨ましくないと言ったら嘘になる
悔しくないと言ったら嘘になる
足を引きずる俺に金髪野郎は告げる
"ここはもっと気持ちがいい"
Cabrán...
俺はもっと気持ちよくなる為の道に進んだだけ
口元をニヤリと歪ませて歩を進める
全身が悲鳴を上げる
自分を呼ぶ声が聞こえる
その声に答える様に顔を上げた
客席を見ると唇を噛み締めているあいつと目が合った
目に涙をいっぱいに溜めて
その顔を見て思わず笑った
"なに泣いてんだバーカ"
そんな目線を送ったが気づいただろうか
さあ
俺の分の涙はお前の流した涙で十分だから
新たに進み始めよう
おわり