短編

□勝ち負け(オカダ)
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勝って

勝って

勝って

勝ったら

何が手に入るんだ









-勝ち負け-










G1が始まり、負けなしが続く成績の中で『勝利』という感覚が段々と気薄になっていった。誰も俺を止められないし、止まる気もしない。王者であり続ける意味。そんな事を考え始めていた。頂点に立つのは気持ちの良い事だが、追いかける背中がない事もどこか寂しくあった。

最近では負ける事を望んでいる客が増え、ブーイングまで聞こえる始末。

そんな中、始めてG1の試合で負けたが、正直落ち込みはしなかった。寧ろ面白いという感覚が蘇ってきた自分に少し安堵した。周りは勝った選手をもてはやすが、それ程俺が偉大って事だろ?

そして最後は決勝戦に進む為の試合。引き分けでも進む事が出来るが、どうしても勝ちたかった。今年、こうやって対面するのは何度目だろうと悠長に考えていた。

何度倒しても起き上がる。
きっと相手も同じ事を思っているだろう。

周りが危険だと止めようとする。


うるせぇ。プロレスラーは超人なんだよ。邪魔するな。


そう呟いたが、気づいたら控え室に横たわっていた。

顔に掛けられたタオルを見て、ああ、俺は負けたのかと認識した。

身体がガチガチになっているが、何とか腕を動かし顔に掛かっているタオルを外す。天井が見えると思いきや、1人の女性が涙目で心配そうに俺の顔を見下ろしていた。



「名無・・・」



名前を呼ぶと、涙目だった目から大粒の涙が零れ落ち、顔を濡らされた。泣きながら俺の首元に首を埋める名無の頭を、何とか動く手でポンポンと撫でる。



「泣くな。大丈夫だから。」


「・・・オカダさんのバカ!バカ!」


褒められはすれどまさかの罵声にオカダは目を丸くし、名無らしい一言に笑いが出た。



「ごめん。心配かけた。」

「心配した!凄く心配した!」



ポロポロと大きな目から涙を流し、オカダを叱る女性は名無以外にありえない。そんな存在がいる事が、オカダを立ち上がらせる気力にもなっていた。

名無の涙が少し落ち着くまで待った後、オカダが口を開いた。




「・・・俺、負けたよな。」




分かっては居たが、確認せずにはいられなかった。そんなオカダの問いかけに、名無はオカダから目線を外す事なく答える。




「・・・うん。負けた。」




『負けた』という言葉が酷く身体にのしかかった気がした。




「負けたか。」

「うん。」

「そっか。」




留めていた物が心から溢れてくるのを必死に押し殺そうと思ったが、名無がオカダの手をそっと握ったのを合図に、我慢する事を辞めた。





「・・・あーーーーーーー!!!」





控え室から聞こえるオカダの叫び声に、声を聞いた誰しもが驚愕した事だろう。ただ名無だけが、微動だにせずオカダを見つめていた。
オカダは隠す事なく、ありのままの姿を名無に曝け出した。
名無を見ると、先程まで泣いていた涙は止まり、優しい眼差しでオカダを見つめていた。
思い出した感情が蘇り、オカダの身体を支配していく。





「・・・・・悔しい。」





本音が漏れた途端、目の前が滲んだ。
それを隠すように手で顔を覆った。
そんなオカダの頭を名無が優しく撫でる。その温もりを感じながら、手の隙間から零れ落ちる涙を止める事はしなかった。





「次は負けねぇ。」


「うん。信じてる。」






頑張れとも、無理をするなとも言わない。そんな名無の存在をとても有難く感じた。

暫く無言の時間が続いた後、名無がゆっくりどう立ち上がる。



「先生、呼んでくるね。」



1人にした方が良いと気を利かせたのか、席を外そうとする名無の手をオカダが咄嗟に掴んだ。
名無は驚きオカダを見たが、掴んだ張本人も何を伝えて良いかわからず口ごもっていた。




「・・・」

「どうしたの?」

「・・・もう少しだけ」

「・・・?」

「もう少しだけ側に居て。」




また本音が出た自分が恥ずかしくなり、先ほどと同じ様に顔を覆った。そんなオカダを見てクスリと笑い、名無が横に座りなおす。




「オカダさんが甘えるなんて珍しい。」

「・・・たまには良いだろ。」

「いつでもどうぞ。」

「・・・生意気。」

「オカダさん程じゃないですよ。」

「言うねー。」




負けても、勝っても、泣いて、笑ってくれる君がいる。
それだけで十分な気がした。


勝つよ。立ち上がるよ。
だって俺は王者だから。




「名無。」

「ん?」

「ありがとう。」

「・・・どういたしまして。」



だけど君の前では

勝ち負けの関係ない

素の俺で居たいんだ











おわり。







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