アスター

□修行
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鳥たち声が山に木霊する早朝。私は3日ぶりに人間界に降りてきた。

「……あんまり実感ないな…」

「何がだい?」

「あ、いえ…霊界にいた時とあんまり変わんないなって」

霊界で過ごした時と人間界とでは空気や景色などは違ってもそう大きく変わったような感じはない。ぼたんさんと違って飛んだりできるわけじゃないからかもしれないけど。

「まぁ霊界は人間界に近いところにあるからね〜……あ、ほら見えてきた! 」

彼女の指さす方に目線を移動するとそこには大きくて立派な門が堂々とそびえ立っていた。

「す、すごい……」

「相変わらず立派な家だねぇ」

「……ここに、玄海さんが居るんですね」



暗黒武術会に連れて行ってもらう代わりに力を使う時に膨大に放ってしまう妖気を抑えることを条件として告げられ、良い知り合いが居るとコエンマさんに言われるまま地図をもらい山奥へ来た。
ぼたんさんは私のお目付け役として強制的に同行させられているのだけど、彼女はこの場所も私がまだ会ったことのない玄海さんのこともよく知っているみたいだ

「ねぇぼたんさん、玄海さんってどんな人なんですか…?」

「ん〜、ひと言では言えないほど凄い人で、人間なのにめっっちゃくちゃ強い幽助の師匠だよ! 」

身振り手振りで答えてくれるぼたんさんに少し笑いながら心中で考える。
確か幽助くんもかなり強かったと思うんだけど、彼の師匠ならそれを超える強さ……どんな人なんだろう……


石段を登りきり門の前まで来ると、余計にその大きさに圧倒的される。

「!すごい霊気……」

すぐ側で感じる凄まじい霊気にたじろぐと門の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた





《__ざっけんじゃねぇー!!……__》



「……ん?幽助の声じゃないかい?幽助も玄海師範に修行してもらってるのかしら。」

「……本当だ。…でも何か怒ってないですか? 」


《……__…んのクソババアーーー!!》







……クソババア?


微かに聞こえる幽助くんの声にふたりで門に聞き耳を立てていると、突然その門は開いたものだから私とぼたんさんは揃って地べたに倒れ込む形になってしまった


「何をグズグズしてるんだい!」

「あいたたた……あッ!玄海師範!」

ハッとして顔を上げるとそこには厳しそうな顔立ちで、小柄なお婆ちゃんが後ろ手を組みながらそこに立っていた

「え、こっこの人が……」

「そうだよ!このお方が幽助の師匠で霊光波動拳の使い手、玄海師範だよ!!」


ジャーン!とぼたんさんはテレビの司会役っぽく腕を広げているけど、玄海さん本人は全く動じることなく私の目をじっと見ている

「お前が笠原僉子だね。話はコエンマから聞いてるよ。」

「は、はい……よろしくお願いします…」

まさか自分の祖母と同じくらいの人が幽助くんの師匠だなんて思わなくて驚きのあまりほぼ空気みたいなか細い挨拶になってしまった。
すると玄海さんは眉間にぐっとシワを寄せ息を吸いこんだ

「喝ッ!!声が小さいッ! そんなひょろひょろした奴に教えることなんてありゃしないよ」

「ひっ!す、すみません!!…よろしくお願いしますッ!!」

玄海さんの覇気は肌がピリピリするくらい勢いのあるもので隣にいたぼたんさんは後ろに転げているし、私も咄嗟に背筋を正して気づけばその場に正座していた。

「言っておくがあたしの修行は甘っちょろいもんじゃないからね。…弱音を吐いたらすぐ帰ってもらうよ。」

「わ…私、強くなりたいんです!
大切なものを守れるくらい……だから、絶対帰りません!」

さっきの覇気でだいぶビクついてしまっていたけど私は頑として玄海さんからの視線を逸らさなかった。何故かここでこの人の目を逸らせばすぐ帰されてしまいそうな気がした。

「……ふ、根性はありそうだね。よし、ついておいで」

「!、 は、はいッ!」

「僉子ちゃんやったね!頑張るんだよッ!!」

膝についた土を払って玄海さんの小さい背中を追いかけて外の門より立派で広いお屋敷の中へ入っていった。





中に入ればそれはもう広い廊下。使いきれているのかと疑問に思ってしまうくらいの部屋。
ぼたんさんから彼女はひとり暮らしだと聞いたけど、廊下には塵ひとつ落ちていない。
私がこの広い家を全部ひとりで掃除しろと言われたら3日は掛かると思う


「ところで玄海師範。さっき幽助の声が聞こえてきたんだけど、修行に来てるのかい?」

「ああ。今は崖に必死にしがみついとるよ。鉄球の重りをつけてな」

「鉄球……」

さらっと信じ難い事を言う玄海さんにぼたんさんと顔を見合わせ苦笑いをする

「まだまだ序の口だがな。……外はアイツが暴れ回っていて何処から流れ弾が来るかも知れん。お前にはここで修行に取り組んでもらうよ」

玄海さんが足を止めて開く襖の奥には四畳半の至って普通の和室

「ここが僉子ちゃんの修行部屋?」

「そうだ。ここには特殊な結界を張ってあるからどんなに力を使おうが外に妖気は漏れない」

なるほど!とぼたんさんが手を打つと玄海さんが振り向きまたあの厳しい眼で私を射抜く

「笠原僉子。強くなりたいとお前は言ったが、ひとつ言っておく。

100人に100通り顔や性格が違うように霊気や妖気もそれぞれ違う。もちろん使える能力もな」

玄海さんの真意が解らなくて首を傾げると玄海さんは身体を完全に私と対面させた

「お前は幽助達と同じ様には強くなれないという事だ」


「え……」

その言葉に微かに抱いていた期待が崩れそうになるとその前に玄海さんは「身体的に、だがね」と付け足した。

「お前の妖力は相手に攻撃するのに全くと言っていいほど向いていない。それは自分でも分かるはずだ」

元々妖怪であるにも関わらず攻撃力に乏しかったからそれには納得できる。

でも、もしかしたら自分の身を守れるくらいには力がつけられるかもしれないと思っていた私は心の隅で少しショックを受けていた


それに気づいてか「話は最後まで聞け」と玄海さんに注意されもう一度背筋を正す。

「お前の妖力は攻撃に向かない代わりに、その力はお前の心次第で癒す以外に形を変える事ができるはずだ。
よってお前が強くしなくてはならないのは肉体ではなく精神…つまり心だ。常に冷静さを保つことで力を使う際の妖気も抑えられる……」

「心、ですか……」

そっと胸に手を当て、トクトク鳴っている心臓の鼓動を落ち着けるように深く息をする。

「玄海さん、宜しくお願いします!! 」

玄海さんはフッと笑って私を部屋に招き入れた。
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