BLUE.BLUE.BLUE for Rina Matsuno

□君がいるあの青空へ
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僕はこの青空に恋している。

あの青空には僕が愛している君がいる、待っているから。


君が旅立ってしまったあの日から、僕の全てが変わった。

この世のあらゆる楽しみも、どんな励ましの言葉も無意味に感じた。

何より、君がいない世界で生きることが苦痛でしかなくなった。

どんな努力も全て無駄だと、水の泡としか考えられない。


どんなに辛くても苦しくても悲しくても君がいるから、頑張れたし耐えられた。

君は僕の生きる希望であり、全てだったのだから。


君を失ってから、僕の心には暗雲が立ち込めるかのような大きな黒い穴が空いた。


何を手に入れ、何をしても埋まらない、満たされない穴が。


どう生きていけばいいのか、全く分からなくなってしまった。

色褪せ枯れ果てたモノクロのヒマワリのように。

君のいない世界に僕の居場所も、生きる意味もない。



あの青空にいる、待っている君に今すぐにでも会いたい、少しでも近づきたい…


どうしたらいいんだ…










そうだ。彼女と同じ場所に行けばいいんだ。

そうすれば、この苦しみから解放される。


彼女のいない世界になどもう未練はない。

彼女から遠く離れたこの青空の下に、
僕を祝福する場所はない。


僕は旅立とうと決心した。彼女の待つあの青空へ。






ギリシャ神話の英雄イカロスは太陽に近づき過ぎたため、蝋で固めた翼を溶かされ地に墜とされた。

きっとそれはまだ彼が重力に縛られた存在だったからだろう。


でも、僕は違う。

最愛の人に会うために、まずは自分を地面に縛りつけている重力から解放するんだ。

飾りの偽りの翼では羽ばたけないのだから。




旅立ちの朝、朝日はまだ残っていたが、すでに澄んだ青空が広がっている。

まるで彼女が僕に微笑みかけているように。

僕はこの街で一番高い建物を探し、そこの屋上に登った。

そこに着くと、同時に白鳩が数羽青空へ飛び立っていった。


ああ白鳩達よ、どうか先に行って彼女に伝えて欲しい。

もうすぐ君の元へ行くからと。
もう寂しい思いはさせないからと。


僕はフェンスを乗り越えた。

さあ、いよいよだ。

もうすぐ彼女に近づける。会える。
待っててね、今行くから。

そう考えただけで、久しぶりによろこびで胸が高鳴るのを感じた。


そして、僕は身体を前方に倒した。


僕の身体は重力に逆らうことなく、空気抵抗を受けながらも、遥か下に向かって墜ち続ける。

その最中、僕はこんなことを考えていた。

皮肉だな。上の青空にいる彼女に近づくのに、どうして今僕は正反対の方向の下に向かっているんだろう。どうやら、生きている間は重力から解放されないらしい。

でも、そんなことを考えているうちに
もう地面は間近だ。


そして、次の瞬間、


ぐしゃり



僕は自分の身体が地面に叩き付けられるのを感じた。


全身の骨が砕けて、内臓が押し潰される異様な感覚だ。

だが、それもほんの一瞬だった。

周りの音が次第に聞こえなくなり、視界もぼやけ霞んでいったからだ。

何より、フワリと浮く感覚がしてきた。ああ、自分は今やっとこの鬱陶しい重力から解放されているんだと。
サヨナラ重力。

そして、霞ゆく景色の中で見えたのは、そう、僕に微笑みかけている彼女だった。









気が付くと、僕は願っていた青空にいた。
やっと彼女と同じ場所に来れたのだ。

そして、振り向くと、そこには僕の最愛の人がいた。

さっきと同じ可愛らしい笑顔で僕に微笑みかけている。

僕は嬉しさのあまり、彼女に近づこうとした。


でも、彼女から僕に近づいて来てくれた。そして、僕を思い切り抱きしめた。僕も負けじと彼女を強く抱きしめた。

もう重力から解放されたと言うのに、僕は彼女のぬくもりを確かに感じていた。

抱きしめ合う中で、彼女は僕の耳もとで優しく囁いた。

「ありがとう、来てくれたんだね」

その言葉を聴いた瞬間、僕の心に空いていた黒い穴が満たされていくのを感じた。

生きていた時でさえ感じたことのないかつてないよろこびがこみ上げていく。最愛の人にもう一度近づけた、会えたよろこびが。


もう君をひとりぼっちにはさせない。不安にさせない。悲しませない。ずっとそばにいるよ。約束する。

君だけを深く強く愛しているから。

君と同じこの青空へ来れたのだから。
 

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