ハンター試験編

□落下する心臓の行方
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二次試験は豚の丸焼きをつくることらしい。豚を殴って焼くだけ。一体これで何を見ようというのか。
この地に棲息するグレイトスタンプは鼻の骨格が発達していて、脳みそはプリンみたいにやわらかいんだっけ。
念能力を使わなきゃならないような手のかかる動物が獲物だったら、もっと苦労していただろう。私の能力では、殺せはするけど消してしまうから丸焼きはつくれない。
ゴンたちがたくさんの豚を引き連れてきたから、そのうちの一匹の脇腹を殴って殺した。あとは焼いて終了。
なんて楽なんだろう。

「うまくいって良かったね!」
「一次試験より楽だな」
「そうだね。でもこんなに手抜き料理なのに、あの試験官はおいしいおいしいっていって食べてくれたね。嬉しかったな」

ゴンとキルアにそうこぼすと、二人とも顔を見合わせた。

「オレ、ナマエの料理だったらなんでも食べるよ!」
「俺は毒入りでも食べるぜ!」

二人の言葉がうれしくて思わず笑みがこぼれた。


次の課題は、スシという料理だった。スシも確か本で読んだことがあるが、知っていることは米と魚を使うというだけだ。
ナマエは今回初めて試験内容に一抹の不安を覚えた。

知っている情報をこっそりゴン達と、ついでにヒソカに教えて機嫌を直してもらおうと思ったのに、レオリオとクラピカが大声でばらしてしまったせいで台無しになった。

「魚だって!ナマエ、川にいこう!」
「ええ、行きましょ。釣り竿大活躍ね」

ゴンとキルアに続いて川にいく。
川の中に手を入れると、突き刺す様な冷たさが手から脳に伝わった。
しかしナマエは臆することなく川に飛び込んだ。そんなに深い川ではないから、両足はしっかりと川底につく。
視界に銀色が煌き、咄嗟に手を動かしてあっさり魚を捕まえた。
ついでに再び水中に潜ってごしごしと頭を洗っておいた。汗臭さは元からないが、それでも頭は洗っておかないと落ち着かない。

ゴンとキルアも労することなく魚を捕まえ、三人揃って会場に戻った。
ナマエはまな板の上に魚をおき、しげしげと眺めた。
それにしても、淡水魚とはこのようなグロテスクな見た目だっただろうか。ゴンとキルアの魚も含め、どれもこれも食べられそうではない。
用意された調理器具の中には、出刃包丁があった。これを魚に対して使えということは、捌けということ。
ナマエは魚の腹を開いて内臓を取り出し、身を切り出した。
しかしここからどうしたものか。
ゴン達が足しげく試験官メンチのところに通う横で、ナマエは焦り始めた。
ここで失格になってしまったら、クロロになんといえばいいのだろう。しかし考えても調理法は浮かばない。
包丁を握る手が汗ばみはじめた。

「どうだい?」

気づくと横にヒソカが来ていた。

「なにも思い浮かばない。どうしよう、」
「ボクも全くさ。これで失格になったらあの試験官を殺して帰るよ」
「ねぇ、ヒソカお願い。一緒に考えてほしい」

必死な瞳で懇願するナマエをみて、ヒソカは目を細めた。
ナマエが自分にこんなにすがってくるのは、クロロが関係しているときだけだと思うと素直に喜べない。

「大丈夫。ナマエを落とすようなら、ボクがあの試験官を殺すよ」
「それじゃあ何の解決にもなってないわ」



試験も終盤にさしかかった頃、禿げた忍者が調理法をばらしてくれた。
とりあえず米にわさびと刺身をのっけて、握りずしなるものを作ってみたが、悉くメンチに批判される。
ナマエは指摘された点に注意しつつ一心不乱にスシを握り続けた。
握りが弱いと言われれば少し強く、刺身が厚いと言われれば少し薄くした。
しかしメンチが首を縦に振ることはなく、ただ時間だけが過ぎていく。
焦りのために鼓動が早鐘を打ち始める。
ナマエは試験官のメンチを見た。期限はメンチの腹が満たされるまでと言っていた。
あの細い体に、あとどれほどのスシが入るのだろう。
スシを握る最中も、不安で胸が締め付けられる。
メンチがバツの札を掲げる度に、心臓の奥の方がぎゅっと痛んだ。

「わりぃ、おなかいっぱいになっちゃった!」

メンチの声に、四度目のスシを握っていたナマエは弾かれたように顔をあげた。
うそ。
次の瞬間、ナマエはメンチの前にいた。

「お願いします、もう少し時間をください。せめて、あと1つだけでも料理をみてください」

必死に頭を下げた。

「ダメね。私がおなかいっぱいになったら試験は終了っていったでしょ。今年の合格者はゼロってことよ。また来年がんばってー」

心臓に、ずしりと鉛がのっかた。
周りの喧騒がどこか遠くで聞こえた。
クロロが失望した目を自分に向けている気がした。家に帰れない。

そんなナマエの様子をみて、ヒソカはトランプを一枚出した。遠くのイルミも釘を取り出している。

その時

ヒョオオオオオオッ ドオンッ!!

凄まじい音とともに、天から何かが降ってきた。
あたりに突風が巻き起こる。
ナマエは髪をなびかせながら、ゆっくりと顔をあげた。
砂煙が晴れると、そこに老人が立っていた。
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