ハンター試験編
□振り返ると落とし穴
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ジリリリリリ、と試験開始を告げるベルの音が地下にこだました。
その音を皮切りに、前の壁が騒音を立てつつゆっくりと上にあがる。
視界が開けると、天井の高い通路が遥か遠くまで聯亙していた。
そこに、一人ぽつんとスーツを来た男性が立っていた。
自らをサトツと名乗ったハンター試験官は、二次試験会場までついてくることが一次試験だという。見た目はくるりと回ったチョビ髭が印象的で、ナマエがつけたあだ名はピエールだった。
「ついてくることが試験って、道中になにか仕掛けられてるってことかしら」
「さあ、ただ走るだけだったら拍子抜けだね」
「その可能性もあり得る」
サトツがゆっくりと走り出したので、他の受験生に混ざってキルアとナマエも走り始めた。
といっても、隣のキルアは悠々とスケートボードで走っている。
私も暇つぶしに本でも読もうかな。
ナマエは腰のポーチから本を取り出した。しばらく本を読みながら走っていると、後ろからコラァと怒鳴り声がした。
「おいクソガキ!ちゃんと走りやがれ!」
後方を振り返ると、スーツにサングラスという、ヤクザの様な出立ちをした男がいた。汗がだらだらだ。
なんで?とキルアが疑問符を浮かべると、さらに怒りだした。「走って」着いていかないことが気にくわないらしい。重箱の隅をつつくようなことをいう人もいたものだ。
キルアに無視して行こうと声をかけようとしたところで、後ろから異を唱える声がした。
みんなで一斉に振り向くと、そこにはまだ年端もいかない男の子がいた。
若い──というより、まだ幼さの残る顔立ちをしている。
「あなたみたな歳の子も受けてるのね」
「オレみたいなって、歳はそこの子とあまり変わらないよ」
「あ、それもそうだね。気を悪くしたならごめんなさい。単純に感心したの」
だってキルアはゾルディック家だから、いろいろと例外だし。
キルアがスケボーを漕ぐのをやめて、するすると減速して少年に近づいていった。
「ねぇ。君、年いくつ?」
「12歳!」
どうやらキルアは同い年の少年に興味を持ったらしい。
あの家庭では家族以外の子どもと接する機会はまずないから、関心をもつのはごく自然なことだ。それにこの少年は色んな意味でおもしろそう。
少年はゴンとなのり、キルアはゴンに触発されて、スケボーから降りて一緒に走りはじめた。
そのまま三人並んで走る。
特に会話はなかったが、本を読む気にはならなかった。
しかし、突然ゴンが歩みを止めて後ろを向いた。
「どうしたの?」
目線の先には、さっき怒鳴り散らしていたヤクザがいた。汗をびっしょりかいて今にも倒れそうだ。
「おい、ほっとこうぜ」
キルアはやれやれといった態度だったが、私はヤクザを見るゴンの真っ直ぐな瞳に魅入っていた。ゴンは、ただあのヤクザが諦めずに走ってくるのを、一寸の疑いもなく信じていた。
ナマエは、彼を信じるゴンを信じる気になった。
「キルア、あの人は来るよ」
「え?」
うおおおお、という雄叫びとともに男性が突進してきた。にっこりとゴンは破顔して、器用にリールでヤクザのカバンを手にとった。
「ゴンってすごいね」
「え、こんなの簡単だよ!」
「いや、本当にすごいよ。眩しくて魅入っちゃった」
「ナマエ何言ってんだ?それ俺にもやらせてくれよ!」
こんな真っ直ぐな瞳を持つ少年なら、キルアに何かをもたらすかもしれない。
「ハンター試験ってやっぱりおもしろいかも」