ハンター試験編
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遠い遠い、幼き日。
暗澹たる世界の中に。
あなたが一筋の光を差し込んでくれた。
それは嚇灼とした明光となり、世界を一気に彩った。
真っ黒な真っ黒な 私の太陽。
「ハンター試験を受けてこい」
全てはこの一言から始まった。
本を読むのを一旦やめて声のするほうへと顔を向けると、クロロは視線をかえずに本を読んだままだった。
またいつもの気まぐれかな、と思って視線を本に戻す。
「え、なんで今更?」
「あった方がお前をどこにでも連れていける」
「自分は立ち入り禁止区域なんか無視していろいろな場所にいってるくせに」
「お前は蜘蛛じゃないだろう」
読んでいた本のページをめくった。
「なるほどね、私がお尋ね者にならないように気を使ってくれてるんだ」
「ああ」
反論されると思って言ったのに、間髪いれずに肯定されて逆に何も言い返せなくなった。少し焦ってクロロを見ると、相変わらず目線をあげずに本を読んだままだった。
「・・・わかったわ」
私は一生、この人にはかなわないかもしれない。
ナマエは諦めに近い気持ちで承諾した。
「そうだ、今年はヒソカも受けるらしいから注意しろ」
え、と首をかしげる。
「わかったけどなんで注意?」
そこで初めてクロロは本から顔をあげた。
大きく真っ黒な瞳が私を見つめる。
「お前は俺のモノだからだ」
ドキリと心臓がなった。
その音をごまかすように慌てて視線を逸らした。
「はいはい、どうせ私はモノですからね」
こうやって息を吐くように甘言を吐くから、私は本当に自分がクロロの所有物だと感じてきてしまう。それは恋人同士のような甘ったるい関係ではなく、単に持ち主とその所持品という関係。
先ほどの注意しろ、という言葉も、大方ヒソカは戦闘狂だから、所持品に傷がつかないようにと口にした言葉なのだろう。
「心配しなくても大丈夫よ。彼と戦うことになってもなんとかするし、そもそも彼、私に甘いところがあるから」
「だから注意しろと言っている」
どういうことだろう。その言葉の真意が掴めなくて再びクロロに視線を向けると、もう彼は本を読む作業に戻っていた。どうやらこれ以上口を開く気はないらしい。
「・・・わかった。ヒソカには注意する」
やっぱり私は、クロロにはかなわない。でも、それは抗うことを選べない自分のせいだということは、自分が一番良くわかっている。