ハンター試験編

□ほんとうのターゲット
2ページ/4ページ

ナマエはスタート地点から遠く離れた、小高い丘の木の上に座っていた。近くには川が流れている。ここならすぐに魚を捕ることも、体を洗うこともできる。ナマエは生活の上で水の存在が最も重要だと理解していた。
そしてそれは他の受験生も同じ。放っておいても、ここには水を求めて他の受験生がやってくるだろう。あとは待つだけだ。ナマエはゆっくりと瞳を閉じた。


4日目の昼。人がこちらに近づいて来る気配を感じた。しかし、足音が全くしない。随分静かに歩くものだと思い、木の枝の隙間から覗くと、やってきたのはキルアだった。すぐさま木の上から降り立った。

「っ!!?」

ザッとキルアが飛びのいた。キルアの爪がキラリと光った。が、私の顔をみると肩の力を抜いた。

「なんだナマエかよ。驚かせんなよなー。お前全然気配しねーんだもん」
「褒め言葉として受け取っておくね。──ところで、キルアは尾行されるのが趣味なの?」

ちらっと後ろの繁みに視線を送った。その繁みに一人、そしてその仲間と思われる二人が後方にいる。さらに、もう一人、他の三人よりはうまく気配を隠してこちらの様子を伺っている。

「ちげーよ!アイツ、出てこいっていっても全然出てこねーんだよ。だからそろそろこっちから行こうと思ってたとこ」
「いいんじゃない?ちょうどお仲間さんもきたところみたいだし」

先ほど一番近くから尾行していた者が、後方にいた二人と合流し、三人で繁みから出てきた。

「おいイモリ!お前、あんなガキと女相手に何やってたんだよ!」
「兄ちゃん、女子供には手を出せないよ」
「そんなこと言ってる場合かよ!さっさとやれ!」


イモリと呼ばれた男は、仲間からどやされてこちらにやってきた。ナマエは、このプレートも等しく一点とカウントされることをありがたいと思った。きっと今までの試験は三人で協力して潜り抜けてきたのだろう。だが、個々の力はあまりにもお粗末だ。

「おいっ!そこの二人、プレートを寄こせ!そしたら見逃してやる!」
「やーだね」

即座にキルアに断られると、イモリは顔を顰めて拳を握りしめた。
ずかずかとこちらに寄ってくるイモリを、二人で大人しく待つ。イモリは歯を食いしばって、キルアの腹に拳を入れた。ポーンとキルアはきれいに弧を描いて後ろに吹っ飛んだ。
完璧な受け身。

「ど真ん中入った!あれはしばらく立ち上がれねーぜ!女あ、てめーも観念しな!」

一気に威勢をよくしたイモリはそのまま拳を振り上げてナマエに向かってきた。無論、私はキルアみたいに優しくないから後ろになんか飛んでやらない。腹部を殴られる瞬間、腹筋にきゅっと力をいれた。
パンっと鈍い音がして、一瞬イモリは固まった。

「っっ痛ってええええええええ!!!!」

イモリは拳を抱えて座り込んだ。

「ナマエにパンチするなんてばかじゃねーの。プレートの番号は、198か」

キルアは先ほど殴られたときに、ちゃっかりプレートを盗んでいた。ナマエは秘かに期待していた番号ではなかったので、小さく溜息をついた。キルアは座りこんだイモリの首ねっこを捕まえて、喉元に鋭く尖った爪を突き付けた。
途端に、今までの可愛らしい雰囲気は消え去り、尖った氷のような目をして、周りの温度が一気に下がる。イモリの毛が逆だった。

「動かないで。俺の指、ナイフよりよく切れるから」

紅い滴が一滴、キルアの爪があたった首筋から流れ落ちた。イモリはキルアの殺気をもろにあてられて、冷や汗を大量にかいて震えている。

「ねぇ、そっちの二人、プレートちょうだい!」

イモリの仲間は、キルアとナマエを交互にみて、ごくりと喉を鳴らしてた。そして、ゆっくりと目を閉じた後、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ナマエにプレートを投げてよこした。

「197番と199番かあ。見つからないなあ」
「おっ、俺のターゲットの番号あるじゃん!」
「199番だっけ。はい、どうぞ」
「サンキュー!」

これでキルアは自身のプレートと、ターゲットの199番のプレートを合わせて、6点分のプレートが揃ったはずだ。イモリの兄は、二人のやり取りをうらめしそうに眺めていた。

「あ、ナマエ、このプレートいる?俺もういらないし」
「本当?それならお言葉に甘えようかな。・・・実はターゲットがまだ見つからないの」
「へー、そうなんだ。ナマエならもうとっくに集めてると思った。もうターゲットは諦めて、6点分揃えちゃえよ」

キルアはひょいっとプレートを投げてよこした。イモリがひっと声をあげた。

「ありがとう。あと3日だし、そうすることにするわ。それじゃ、またね」

ナマエはお礼をいうと、地面を蹴ってその場を後にした。


もう試験も後半戦だ。必要な点数はあと1点。それなら、待ちぶせはせずに自分で探したほうが早いだろう。
ナマエは先ほどまでいた場所には戻らず、他の受験生を探して木々の枝の上を移動することにした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ