ハンター試験編
□振り返ると落とし穴
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「はあ、さいあくね」
ヌメーレ湿原とはよくいったもので、霧で視界が悪いのに加えてどこもかしこもヌメヌメしている。
念で探ればサトツさんの位置はすぐ把握できるが、足場の悪さはどうしようもない(先ほどの一件から、ナマエはサトツのことをさん付けするようになった)。
ひたすら面倒なので、ナマエは走りながらよくわからない怪物や植物の生態を眺めることにした。
あそこで人を食べてるのはキリヒトノセガメだったかな。昔本んで読んだことがある。
背中の実を霧にまぎれて人間に擬態させて、寄ってきた人間を捕食する。でも、実際にその実を近くでみると、どうみても人間にはみえないから、この一年中霧が漂うヌメーレ湿原独特の捕食方法だ。
ふとみると、前のほうにヒソカがいた。ナマエはヒソカのところまで走っていった。
「ちょっとヒソカ」
「ナマエ、おかえり。キミがいなくてさみしかったよ」
「そんなこといってる場合じゃないわよ。さっきのはなんだったの」
さっきのとは、ヒソカがサトツさんにトランプを投げたことだ。
長い廊下を抜けて、ヌメーレ湿原へ足を踏み入れた直後、人面猿が現れて、自分こそ本物の試験官だと受験生を騙そうとしてきた。ヒソカいわくどちらが本物の試験官か確かめようとしたらしい。
そんなもの確かめるまでもなくオーラで一目瞭然なのに。
「少し遊んでもいいじゃないか。試験があまりにもつまらなくってさ」
「今年も失格になるところだったでしょ。もう試験官に手をだすのはやめなよ。特にサトツさんにはね」
「ふうん。・・・ずいぶん彼をかってるんだね。妬けるなあ」
「返事は?」
「はいはい、わかったよ」
ヒソカは両手をあげてひらひらと振った後、三日月形に目を細めた。
「それならキミがかわりにかまってよ」
「嫌よ」
即答した。
横からじっとりと拗ねた視線を送られたが、反応なんてしてやらない。
「へえ・・・いいよ。じゃあ他の受験生で遊んでくるから」
そう言い残して、ヒソカは走り去っていった。
あれは今まで我慢してたのも相まって、かなり荒れてしまったったかもしれない。
ナマエはこれから「遊ばれる」であろう受験生のことを考えて、心の中で合掌した。
ナマエはサトツさんの念を追いかけて、先頭集団においついた。ふとみると、全身針だらけのイルミがいた。
「あ。ナマエ。来たんだ」
「ええ」
もうそろそろ二次試験会場につくだろうか。ナマエはちらっと後ろをみた。
「ねえ、イルミ。ヒソカにそろそろ戻ってこいって連絡してくれないかしら」
「なにそれ。自分ですればいいじゃん」
「いや、ちょっといじけさせちゃったの」
「ふーん・・・めんどくさい」
そういいながら携帯を取り出してくれるからイルミは優しい。
「ありがとう」
コールしながらイルミが口を開いた。
「そのかわり、試験が終わったらうちに来てね。母さんが会いたがってるから」
「え」
私はイルミの母のキキョウが苦手だった。だから何かにつけて訪問を断っていたのだが、イルミは今回もかわされるのを見越して先に恩をうったのだろう。
「いじわるね・・・。わかったわよ」
ナマエは力なく頷いた。