ハンター試験編

□振り返ると落とし穴
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階段の手前でゴンとキルアがどちらが先につくか競争する、と言い出した。

「ナマエも一緒にどう?」
「まじかよ。こいつめちゃくちゃ速えぞ」
「本当!?みてみたいな!!」

そんな宝石箱のような瞳で頼まれたら断りづらいが、二人の真剣勝負に水を指す訳にもいかない。ナマエは眉を顰めた。
ゴンは、そんな私に気がついて気を利かせてくれた。

「あっ、それなら、審判やってくれない?」
「ああ、それならいいよ。じゃあ先にいってるわね」

二つ返事で了承して、さっさと階段を登っていく。
すぐに、先ほどキルアに声を荒げていたヤクザに追いついた。どういうことか、上半身が裸で、器用にナンバープレートだけ胸につけている。
これ肌にもつけられるんだ、とナマエは感心した。しげしげと張り付いたプレートを観察していると、声をかけられた。

「なあ、あんた。さっきはありがとな」
「え?」
「俺がまだ走れるっていってくれてただろ」

ナマエは頭をかいた。

「ああ、あれはあなたじゃなくて、ゴンを信じたのよ」
「ダァーーーッ!なんだと!?」

わかりやすく額に血管を浮かべるので、思わずふふっと笑ってしまった。するとヤクザの顔が一瞬固まって、サングラスをかけ直した。

「まあ・・・この際理由はどうでもいいさ。ありがとよ、俺はあれで持ち直せたんだ。俺はレオリオってんだ」
「私はナマエ、よろしくね」

「おい、レオリオ。試験中にナンパとは感心しないな」
「ナンパじゃねぇよっ!!」

ふとみると、レオリオの横に金髪のショートヘアの美形がいた。
中性的な顔立ちに、まだ声変わりをしていない声。

「連れがすまなかった。私はクラピカだ」
「よろしく、クラピカ」

きっと男女関わらず人気があるに違いない。

「その服素敵だね。民族衣装なの?」
「ああ。私はクルタ族だ」
「へえ、クルタ族」

どこかできいたことのある民族だ。きっと有名なんだろう。
後ろをみると、ゴンとキルアが迫っていた。

「それじゃ、ちょっと先にいくわね。上で会いましょ」

グッと足に力を込めて、強く地面を蹴った。視界の先に外界の光が見えて、あっと言う間に大きくなる。
ようやくこの長い地下トンネルを抜けるらしい。
何人もの受験生を追い越して、そのまま地上に下り立った。
霧が立ち込める中、まだ地上には誰もいない。
試験官すら追い越してしまったのだ。

ナマエは『一次試験は私についてくることです』という試験官の言葉を思い出して、急に心臓を鷲掴みにされた気分になった。
追い越してしまったが、大丈夫だろうか。
ヒソカのことをいっておいて、自分が失格になったら顔向けできない。ヒソカではなく、あの人に。急に胸が苦しくなった。
心臓の音がやけに大きく聞こえ始める。
サトツ試験官が地上にやってきて、それと同時にゴンとキルアがゴールした。
二人に囲まれてどっちが先か、としつこくきいてきたが、耳に入らなかった。
すぐに試験官のところにいった。

「すみません、私、追い越してしまって。あの、失格になるんでしょうか」

声が震える。
握りしめた手がじんわりと汗ばんだ。
心臓がうるさい。
サトツはちらりとこちらを見た。

「素晴らしい速さでした。目的地についていますから、失格にはしませんよ」
「・・・あ、ありがとうございます!!」

思わず安堵で泣きそうになって、ぎゅっと口を結んだ。
危なかった。もう少しで全てを失うところだった。これからはもっと慎重にならなければ。

去っていくナマエの後ろ姿をみて、サトツは精錬された実力とともに、あれほどハンターになりたいという強い気持ちがあれば、必ずこの試験も通過するだろう、と思った。

ナマエはぐるりと周りを見回して、ぽつぽつとトンネルを抜けてきた受験生の中にゴンとキルアを見つけた。

「キルア、ゴン、ごめんね。実はよく見てなくって・・・」
「ナマエ!すごかったね!ロケットみたいに速かったよ!」
「なあ!行ったとおりだろ!ナマエははえーんだよ!」

怒られるか失望されると覚悟していたのに、ゴンには尊敬の眼差しで見られるし、キルアはなぜか自慢気だし、拍子抜けしてしまった。

「えっと、怒ってないの?」
「怒ってないよ!すごくかっこ良かった!」
「今度はちゃんと見てろよな」

なんて優しいんだろうか。
ナマエは思わず二人を抱きしめた。

「わわっ」
「おっおい!恥ずいだろ!」

この子たちが試験を通過しますように。
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