ハンター試験編

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クロロに言われたとおりにハンター試験を受けようと思ったところで、いつ、どこで開催されるのか知らないことに気づいた。
ナマエがハンター試験について知っていることは、毎年どこかで開催されているということだけだった。
クロロにきこうにも、彼は今しがたしばらく出るといって外出していった。彼の「しばらく」は三時間か三ヶ月か、その時によってまちまちだ。それに、これはクロロにやれと言われたことだ。できることならクロロには頼らずに成し遂げたい。
どうしよう、と考えてその情報を教えてくれそうな人物が真っ先に頭に浮かんだ。
素早く携帯を取り出して電話をかける。きっかり3回目のコール音がした後に電話が繋がった。

『もしもし?』
「もしもし、シャル。いきなりごめんね」
『いや、気にしなくていいよ。どうしたの?』
「あのね、今年のハンター試験の日時と会場を教えてほしいの。報酬は言い値で払うわ」
『いいよ。ちょっと待ってね。今調べるから』

電話の向こうからカタカタ、とパソコンを叩く音がした。

『ナマエ、わかったよ。試験は一週間後、場所はザバン市にある定食屋だ。あとで地図を送るよ』
「へぇ、定食屋が試験会場なんだ。変わってるね」
『お店に入ったら、ステーキ定食を注文してね。そしたら店主が焼き方を尋ねるからじっくり弱火で、と答えるんだ。これが試験を受ける合言葉』
「わかった、ありがとう!シャル大好き」

携帯の奥からハハッと笑い声が聞こえた。

『今の言葉をクロロにきかれたら殺されちゃうよ。あと、お代はいらないよ。トモダチサービス』
「ふふっ、なんでクロロが出てくるんだか。それに随分棒読みのトモダチなのね。悪いから今度何か奢るわ。本当にありがとう」

ピッと電源をきった。
読みかけの本を、ウエストポーチに突っ込んで、そのままくるっと腰につけた。
さあ、ハンター試験を受けに行こう。








一週間後、ナマエはザバン市に赴いていた。
ザバン市は、大通りには明らかに胡散臭い商人、路地裏にはヤクに溺れた人間であふれていた。さっさと目当ての店にいこう。
耳障りなセールスを無視して歩いていると、ターバンをつけた黒人男性に声をかけられた。

「お、お嬢さん。ちょっくらこれをやってみないかい?気分転換になるよ?」

顔には薄汚い笑みを浮かべているが、明らかに目がおかしい。哀れな人間だ。反応するのも面倒で、その脇をするりと通り抜けた。

「まあ待ちなって、お嬢さん」

後ろからガッと腕を掴まれた。
次の瞬間、パァンッと腕を掴んだ男性の手が内側から弾け飛んで消滅した。

「う゛っうぎゃあ゛あああああああああああああ手があああああ」

ああ、触れなければ見逃してあげたのに。
突然響いた男の断末魔に、喧騒に包まれていた通りが水をうったように静まり返る。ついで爆発的な悲鳴が起こった。

「失礼します」

俺の手が、手が、と狂ったように叫びまわる男性には我関せずという態度で、ナマエはその場を立ち去った。


ナマエは、自身の念能力を最下層の反乱(ジャイアントキリング)と名付けていた。
これは、突然変異してヒトをも襲うようになったバクテリアを生み出し操る能力である。
念をバクテリアを大量に含む液体に変化させ、その液体を片手に貯めて、通常は人に向かって投げて攻撃する。当たると、バクテリアが爆発的に体内細胞を分解して体を溶かし、体に穴があく。
ナマエは、この能力が非常に殺傷力が高い能力だと自負していた。ただし、唯一の欠点は、バクテリアは有機物のみを分解するため、無機物には効果がないことである。



「やあ」

今度は路地裏からねっとりとした声がした。
声をかけてこなければ無視しようと思っていたのに、今日は上手くいかない日だ。

「のぞき見なんて趣味が悪いのね」
「何度見ても素敵な能力だね」

私の言葉を無視して、ヒソカはクックと小刻みに笑った。

「そうかしら。私が操ってるのは目に見えないくらい小さい子たちだよ。下克上として弱い者が強い者に使う能力だと思うんだけど」

毛先を弄りながら答えたあと、ちらりとヒソカを見た。

「クックッ、僕はそうは思わないな」
「あら」

「弱い者が強い者に対して反乱を起こした時点で、その弱い者はもう相手に敵わないとは思ってないのさ。人は勝算があると思っている勝負しかしないからね。つまり、戦いを挑んだ時点で、もう自分をそれほど弱いとも、相手がそれほど強いとも思ってないんだよ。」

「へぇ、よくご存知で」
「おや、ボクを試したのかい?」
「まあね。わかってたでしょ?」
「うん」

ヒソカとナマエは、お互い食えないやつだ、と思った。

ナマエは、この能力を使うとき、実際に自分が相手より弱いと思って使ったことは一度もない。
それよりも、もっと内側から湧き出る激情───ヒエラルキーの最底辺と思われていた存在だって、相手を殺しうること───を知らしめてやるという思いが根本にある。
その激情を形にしたのが最下層の反乱(ジャイアントキリング)だった。

ナマエは小さく溜息をついた。

「私って単純ね…」
「そこが魅力的なんだよ」
「嬉しくないわ」
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