長編夢

□#9 美
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#9 美

ロビーに集まると
番号の印刷された紙が張り出されていた。

「よっしゃ!」

隣で小さくガッツポーズするゆめ。

『614』
続いて連なる己の番号に安堵する。

「ふー、ちゃんと大学行ってて良かったぁ」
胸に手を当て息を吐く及川。

「良かったな、徹っ」

自分のことのように嬉しそうな顔をするゆめに同じように笑ってみせる。


だけど、

さっきのあれはなんだ。

と及川の脳裏には先程の光景が浮かぶ。

黒尾とのやり取り。
耳打ちされた途端に赤面するゆめ。

一体、何を吹き込まれた、、


「レン」

「なに?」

「さっきの、なに言われたの」

「え、、、いやっ、そのー」

歯切れが悪い。
あきらかに動揺している。

イライラする。

「な、なんでもない」

「ッチ」

「っひ」

ゆめに近付く。
目の前まで近付く。

恐怖で顔が引きつっているのがわかる。
そうだろうとも、
いま俺は、機嫌が悪い。

「っ、」
口を開きかけて、

『只今より、第2審査を執り行いますっ!!』

また遮られる。

「と、徹、、」
不安気に恐る恐る伺うゆめ。

「またあとで」
突き放すように言い放って

その場に居るのが苦しくて

俺は、ゆめから離れるようにして人混みに紛れた。



「徹、、」


『第2審査は、面接です。
呼ばれた番号の方は、順番に控え室にきて下さい』


一斉に番号が呼ばれ出す。

『613番の方は、Uー5号室までお越し下さい』

あ、わたしだ。

Uー5
と記された控え室に入る。

「し、失礼しますっ」

ガチャと扉をあけ中に入ると、
パイプ椅子と迎え合わせに
長机と審査員が1人座っていた。

いかにも面接ってかんじで
その空気だけで緊張する。

足早に自分のパイプ椅子に向かい、座る。

「よ、宜しくお願いしますっ」
バッと深深く頭をさげる。

ゆっくり顔を上げ
審査員と目を合わせる。

「げっ」

「ああ、宜しく頼む」

そこに居たのは、

「牛島 若利だ」

1匹の闘牛。
否、ゆめにとってはただの変態牛だった。

「な、なんで、、、」

「特別審査員として頼まれた」

最悪だ、、、
なんでこんな奴に審査されなきゃならんのだ

と自分の不運に絶望するゆめ。

「安心しろ」

突如、牛若が口をひらく。

「お前は合格だ」

「へ」

「なんたってお前は」

「、、、」


「イケメンだからだ」

、、、

はい??!!

何をほざいているのだろうかこのアホ牛は、、

現状を把握出来ずにいるゆめ。
だが、冗談を言ってる様子はない。
腕を前に組んで、真顔に、真剣に告げる。


「この審査では、ビジュアル面を見ている」

「び、ビジュアル?」

「そうだ。
各控え室には女性の審査員が待機している。
だが、中には俺のように男の審査員が紛れている。」

「、、、」

「個人の好みにはなるが、ビジュアル面で有りか無しかを決め、合格か否かを審査する」

「、、、」

「それが、第2審査だ」


えーっと、
何をどう突っ込めばいいのやら

「なんでビジュアルが必要なの。
バレーがうまければビジュアルなんて、、」

「いや、違うな」

「え」

「確かに、バレーが上手いのは必須条件。
だが、俺たちの相手は闘う相手だけじゃない。」

「?」


「日本国民全員を味方につける。
その為には人気が必要なのだ。」

「人気」

「そうだ。世界に羽ばたくための人気だ。
そして、人気とは誰にでもあるものではない。
人に好かれる奴、気に入られる奴は、世界をも味方につけるやもしれん」

その為の審査だ
と揺るぎのない態度で、声で、眼差で、
牛若は真っ直ぐゆめに告げた。

内容はともかく、
その説得力に言葉を失う。

「では、審査終了だ」

そういって席を立つ牛若。
ハッと我に返り、自分も立ち上がり、控え室をあとにしようとしたが、

「待て」
ガッと手首を掴まれ、阻止される。

「っちょ」
慌てるゆめ。

「審査終了だろ!放せよ!」
もがくが、微動だにしない。

「レン」
闘牛が呼ぶ。

「頼む」

ああ、きっとろくなことじゃない、、

「おr」

「嫌だ」

「、、、まだ何も言っていないのだが」

何回目だよっ!!
と心の中で突っ込むゆめ。

「放せ」
鋭く睨むゆめ。

なのに、
何故か赤くなるアホ牛。

「そ、そんなに見つめるな//」

イラっ
まじでブン殴りてええ!!

埒があかず困っていると


「失礼します」

ガチャっと扉が開いた。


「え」
怪訝そうに2人を見つめる
栗毛の黒ぶち眼鏡の男。


「「、、、」」
固まる牛と小鳥。


「何してんすか」

てかアンタ
と言葉を繋ぐ、

「牛島さん、ですよね確か」

「ああ、そうだ。久々だな月島」

え、知り合いっ?!
と困惑するゆめを余所に続ける。

「覚えててくれて光栄です」

それより、
と再び言葉を繋ぐ月島。

交互に牛若とゆめを一瞥し、

「取り込み中みたいなんで、失礼します」

と足早にその場を立ち去ろうとする。

「たっ!助けて!!」

慌てて月島に助けを求めるゆめ。

「あ、遠慮します」
が、さらりと交わされた。


「え!ちょっと!!待って」
頑張って叫ぶも虚しく、
月島は振り向こうともせず扉に手をかける。

相変わらず牛若も腕を解放する気もなく

万事休す
かと思われたが、

「あっれえ、ツッキーじゃん!」

扉を閉めかけた月島に誰かが話しかけた。

しめた!!
次の瞬間、

「助けてくださああああい!!!!」
ゆめがこれでもかってくらいの大声をあげた。

「「?!!」」

思わず驚く二人。

その声に反応して、

「ヘイヘイヘーイっ」

勢いよく扉が放たれ、

「ヒーロー参上ってね♪」

1羽の梟が舞い込んだ。
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