長編夢

□#7 牛
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#7 牛

ちゅう、してしまった。
しかも絵に描いたようなイケメン君と

ちゅうっ!!

「ゆめ」

「ふぁいっ///」

「ふぁいって何それ」
クスクス笑う及川。

「、、っ///」

何だか、すごい恥ずかしい。
さっきとは違う、
なんだ///なんなんだ///
これがちゅうなのか//ちゅうなのかっ///

ーーハッ!!

そうかっ!!
これが、ちゅう!!

何やらキスに対して変な納得をするゆめであった。


「ゆめ、聞いてる?」

「え?」

「だから、このことは2人だけの秘密だよ」
ニコニコしながら人差し指を口にあてる及川。
慣れた感じで片目を瞑る。

いやあ、イケメンはすることが違うな、、
とひとり関心するゆめ。

「うん、バレるのは困る」

「だろ。あと名前も、だね」

「名前?」

「流石に毎回記憶喪失ってわけにはいかないし、、」

「、、、まあ、確かに」

「それに、ゆめって名前は俺だけが知ってれば十分だろ」
艶っぽく、また再びゆめに近づく及川。


「いや、それはない」

「え?」

ぱちくり

あれ?さっきの反応どこいった??
と困惑する及川を余所に

「でもこれ以上バレたくないから、名前考えないとなー」
と平常運転のゆめ。

「そういえば、あんた名前なんだっけ?」

及川、さらに追い討ち。
ピシャーンと雷が落ちてきたような衝撃を受ける。

「さっきの反応はどこ行ったのさっ!」
思わず、聞いてしまった、、、。

「へ?さっきの?」
きょとんとして暫く考えたのち

ポンっと手を打って

「いやー、ちゅうって初めてだったからびっくりしちゃって。よくちゅうするとドキドキしたり、変な感じになるって聞いてたけど、実際はあんな感じなんだね」

ヘラッと笑いやがった。

なんて手強い。
いや、むしろバカ。

キスという行為がそうさせるものだという認識で納得しやがった。

「で、名前なんだっけ?」

呆れて言葉もでない。

ため息をついて、
「及川徹」
ちょっと不機嫌そうに述べる。

「及川、さん、、、」
少し恥ずかしげに名前を呼ぶゆめ。

その反応にさらにイラっとして
「やめてよね」

「え?な、名前呼んじゃダメなのか?」
しゅんとする。
上目遣いで及川を見上げる、形になるが本人にはそのつもりはない。

「クソッ!その顔ッ!」

ーービクッ

「そんな可愛い顔、他の奴に絶対すんなよッ!」

「へ?」

自覚無し。

「ったく、それからっ!」

「ひっ」

「徹」

「ふぇ?」

「徹でいい」

瞬間、パアッと顔が明るくなり、

「うん、よろしくな徹っ」

極上の笑顔。

「////」

クソッ///
思わず赤面してしまった及川だった。


そんな様子を遠くから
静かに眺めていた男がひとり。

「及川か」

ピクっと反応する及川。

「出たよ」

あからさまに嫌そうな顔をしてみせる。

「なんでいるのかなぁ、牛若チャン」

「その呼び方辞めろ」

「フンッ、、てか、全日本選手の牛若チャンが、なんでこんなとこにいるわけ」

「今回の選抜には全日本の選手達も参加することになっている」

「へえ」
ギラリと目が光る及川。

「やっと叩き潰す機会がきたってことだね」
低音を響かせ静かに言い放つ。

「徹、誰と話してんだ」

二人のやり取りが気になり、
及川の後ろからゆめがパッと顔を出した。

「ああ!!」

「「?!」」

突然大きな声をあげる。

「1番っ!!」

「ん?」

「それはわたしの1番だっ!!」

「っちょ!」

牛若目掛けて突進しようとするゆめを及川が慌てて阻止する。

「こらこら、レンくんっ!男の子はもっと男らしくしなくちゃ」

ゆめの頬をつねる及川。
咄嗟に呼ばれた名前に思わず驚くもすぐにハッとする。

「お、おう!そうだな徹!俺は俺だあはははは」

「?」
さして表情を変えずに首をかしげる牛若。
どうやら気付いていないようだ。
ふう、牛若チャンが鈍感で良かったよ、、、


「これは俺のゼッケンだが」
牛若がさも当然のように主張する。

「いやっ!俺のだっ!
俺は3時間も前にこの会場に居たんだからそれは俺が付けるべきだっ!!」
まるで子供が駄々をこねるように牛若に立ち向かうゆめ。

そんなゆめを見下ろし
凝視する。


じいぃ

「ううっ、、、なんだオラっやんのかっ」
自信なさげなガンを飛ばす。


それでも牛若はゆめを凝視し続ける。

なにか、おかしい

牛若の顔を見ると
目がポワーンとしていた。
心なしか頬が赤いような気がする。

嫌な予感がする。
その予感は見事的中し、

「かわいい」
牛若が口を開く。

ええええええええええええ!!???
牛若が絶対言葉にしないであろう言葉がいま!まさに!いま!!

動揺を隠しきれない及川と
何を言われたか困惑しているゆめにはお構い無しに
牛若はまるで少女のように
もどかしそうにゆめに尋ねる。


「な、名はなんと言う」

「え、ーと、、レン、ですけど」

「レン!!」

「ふぁああい!!?」

名前を叫び、勢いよくゆめの両肩をがしっと掴む。
その余りの迫力にビビりまくるゆめ。

「良い名だ!」

真っ直ぐ、これでもかってくらい真剣に
真顔で、低音で、言い放つ。

そして、

「俺の」

「「おれの?」」

まさかっ
牛若チャンっ!?
一気に焦りだす及川。

「俺の、、、」

「う、牛若ぁああ!!!」
堪らず大声で牛若目掛け駆け出す及川。

阻止せねばッ
牛若チャンに盗られてたまるかッ!!


「俺のこと、お父さんと呼んでくれ」

「「へ」」

及川の中で何かが一気に崩れる音がした。


ああ、、

俺はこんな馬鹿に

負け続けてきたのか、、、
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