長編夢

□#2 烏
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#2 烏

「烏養 繋心だ」

−−ばさっと黒い翼が空を切る音がきこえた。


突然現れたこの男。
金髪を後ろに掻きあげたスタイル
ガタイの良さと目つきの悪さ
くわえ煙草の赤いジャージ姿

んー、どっかでみたような、、、

「おい」

「へ」

「へじゃねえ。あんたは?」

「?」

「名前聞いてんだろーが」

たく、大丈夫かよ。と悪態つく


「ああ、えーっと、、、
忘れた」

「んなわけあるか!!」

「あはは」

はあ、と溜息。

「まあ言いたくねえなら仕方ねえが。
こんな時間にくるなんて、間違えたのか?」

「いやー、単純に早くきちゃっただけなんだけど」

「ポジションは」

やけにきいてくるな

「一応、ウィングスパイカー志望」

「その成りでか?」

「身長は関係ねえだろ!!」

少しの沈黙と
睨みつけるような視線



「、、、、飛べるのか」


きっとそんなセリフ
予想してなきゃ誰だって戸惑うに決まってる


けど、


「飛べる!!」


「よっしゃ」

にやりと口の端が上がる。
もともとの人相の悪さに拍車がかかる。


「なら着いてこい」

「ちょ、、どこに?!」

じゃらんとポケットから出したのは
青いタグのついた鍵。

タグには『第2体育館』と書かれている。

「飛ぶんだろ?なら見せてみろ」

ぞくっ

全身が奮い立つのがわかった

飛べる


「なんで、鍵、、、」

「お、これな。まあ、、、いーじゃねーか」

にかっとちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべる

まさか、勝手に持ち出したんじゃないよな
一抹の不安を抱えながらも
念願の体育館でバレーが出来るなら
と自分の欲望には忠実で

神様、どうか今だけは許して
と信じてもいない神様とやらに
都合のいいときだけ拝んでみる


−−キュッキュッ
シューズと床の摩擦の音。

少し埃っぽい空気
微かに香る独特のカビっぽい匂い

くうううう

「これぞ!たいっっいっくっっかんっ!!!!」

、、、、声に出てた。

「っ?!!びっくりするじゃねーかっ」

相当吃驚したらしい

「やべっ 灰こぼしちまった、、、!!」
靴底で乱暴に溢れた煙草の灰を払う

「ったく、そんなに体育館が好きなのか?
それとも、まさか、初めて見るわけじゃ、、、」

「んなわけあるか!!」

「だよな」

中は大分広かった。
アリーナぐらいはありそうだ。

バレーコートが3つある。
どのコートにも既にネットがはられていた。

金髪兄ちゃんはそのまま真っ直ぐ
真ん中のコートへと向かった

その後に黙ってついていく

ネット際にある籠からボールを取り出し

ーーダン、ダン
とボールをつく

いつも以上に音が大きく聞こえる
心臓の音も少し大きくなった

「よし、じゃあパス出すから
スパイク決めてみろ」

頷いてからワンテンポ遅れて
ボールが高く
放物線状に
ネットの真ん中に放り込まれる


踏み込んで一気に

駆け出す

ーーキュキュ

短く鳴るシューズの音と同時に

空高く

真上へ

「!!」

ーーダダンッ

振り払った手と同じタイミングで
ボールが勢いよく叩き込まれ

跳ね上がった

ーーダン、ダン、、、ダンダンダン、、、。

そしてボールは静かになった
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