掌編

□5分だけの気持ち
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床を拭き、砕けたカップに八つ当たり。

汚い。汚い僕。汚れたカップ。液体。

ここはどこ?
どうして僕は『あの子ちゃん』と居るんだ。

「僕はなんてものを、口にしたんだ?」



はやく、5分経たないかな。
はやく、5分、経たないかな。

どうして、
5分以上が経たないのかな。






部屋の片隅。
妻に知られないように自分以外のゴミを捨てて、部屋に閉じ籠った。

僕は5分君。
暗い部屋で目を閉じて、脳裏の懐かしい声を聞いてた。




――――えぇ。
悪意を持たない子でした。

5分前に信じたものが、悪意だともわからず、

5分前に渡された飲み物を、口にする間に5分。その答え合わせはいつも彼を否定したのでした。

『5分君、ほんとに飲んだの?

それはカラシ入りだよ!』



 5分後に、妻に会いに行く。

「お茶、美味しかった?」
穏やかに笑っていた。

「味がしなかった。
5分前、飲むところまでは、嬉しかった」

「そう。昼飯は美味しかった?」


「わからないんだ、買いにいくところまでは、美味しそうだった」


「そう。次は、買いにいって、そこで食べてみましょうか」


彼女はそんなことを言い微笑んだ。
5分いないに、できるかしら。




END.


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