掌編

□間違い1
1ページ/3ページ

 

 人の好意というものがどうにも駄目だった。
どうしてかわからないようで、なんだかわかるような気がする。
言葉に出来ないほど、駄目だった。
駄目というものが、だめなのは、もうどうしようもないわけで。
だから貰ったチョコレートを砕いた。
粉々に、粉々にしないと、口に出来ない。

「バレンタインだっけ、今日」

友チョコをわざわざ渡しに来た節子に、私は笑顔を向けた。

「なんか、細かくしたほうが、食べやすいかなぁって、思ってさ」

袋のなかで、細かくなったそれを、目の前にぶら下げると引きつった笑いが零れた。

「キャラクターものの、お菓子って、食べにくいとかいう人いるじゃない? 
たぶん、あれだよね。節子の気持ちなんか入っていると、私、食べないもの」

彼女の涙で膨らんだ目元を眺めていた。
ばからしい。
私はずっとそうだ。

「感情を受け取るか、
この世界から、追放されて、迫害を受けるか
貴方には、二択しかないのに」


節子はお嬢様。
このチョコがこんなで、私が台無しにする意味は、社会的制裁を受けるってこと。


二択だった。
感情なんかが混ざっていると、受け付けない。身体が、心が、なんだか、重くなってしまう気がするのだ。

「言いたいこと、それだけ?」
節子の声は冷たくて、私は、喜々として頷いた。

「こんなに、清清しく、間違いを選ぶなんて、ある意味尊敬に値するね」

「そうかもしれないね」

感情を受け取れない身体なら、生きていたって、どうせ、仕方が無い。

「私、どのみち。死にたかったんだもの」

節子はなんだか少しだけ、残念そうな顔をした。

「どうせ、ここであなたが、私を拒絶しても、誰かが助けてくれるわよ。残念だけど……そのとき」

「あっははは! また、二択を、選ぶチャンスがあるの? いくらあっても、私は正解しないよ。安心して」

全部間違えたって、あっていたって、私を救うものなんか、どこにもない。
人の好意というものが、どうにも駄目だった。だから、私は決めた。


「二択でも、全部間違い続けるよ」



2020.0205050
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ