There are no whole truth.(なとなと)

□3章
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24.同じ存在の音

 夜だった。
いつの間にか暗かった。
……いや、さっきからそうか。とにかく、お茶を飲んでいたときより暗い。このあたり、街灯もあまりない。


──にしても、寒い。
今日はまた一段と、冷えた。
気温は、家にある温度計でいくと、10度くらいだろうか?
寒いのに、ぼくの右隣の少女は元気いっぱいで、やっぱりちょっと羨ましい。 
何をどうしたんだか無理矢理起きて退院したまつりは、後ろの方で、ただ、ぼんやりと違う世界を見ていた。


 一人にするのは、確かにいろんな意味で危なそうなのだが、そうは言っても、起きて大丈夫なのか、という感じである。


 ともかく、夜は危ないので、せめてヒビキちゃんに、家に戻っておいて、先に寝てもらおうかと思って送りに行っていたのだが。

本人の傷口を見たわけじゃないし、実際の出血とかも知らないけど、不安というか、不安定というか……
もしかしたら、傷ではなく、内的な痛みなのだろうか。よくわからない。


「──ところで、なんで 店の何階かの表示が見えて、電話が出来なかったんだ?」

 沈黙に耐えかねたのか、ヒビキちゃんが話題を振ってきた。さっきまでに、ちらっとその話をしている。

夜のバスは本数も少ないだけに、今の……8時? くらいのを逃すと、大変なので、今は、バス停のあたりで待っているところなのだった。


「えーっと。ここで突然だけど、ぼくは保育園のときから、小学生のときまで、時計が読めなかったんだ」

「本当に突然だな」

それでも聞こうとしてくれるあたり、優しいのだろう。それか、よほど暇なのか。

「みんなみたいに、数字を見てから、それを時間に結び付けるってことが、どうも難しくて……」

「はあ」

理解しがたい、という顔をされた。同感だ。

「ある日、気付いたんだよ。代わりに位置や、点などで覚えればいいんだ! とね。あの店も何回か来てるし、数字の飾りの錆び具合とか、壁の色合いとか……周りを見れば、そのものがうまく理解出来なくても、わりと、区別はどうにかなってきたんだよ」

状況にもよるけれど。
……自分の説明は、難しい。正確には、見えないわけではなくて、時間がちょっとかかるというか……そんな感じだったが、まあいいや。
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