アイドリッシュセブン

□やっと逢いに行けるよ
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キラキラ光る7色のライト、カラフルな7人を模したライト。そのオレンジ色のライトが大きな音を立ててキラキラと光りながら地面へと落ちる


それはライブのセットの最終調整中に起こった。


三月の立ち位置に印をつけている女性スタッフのはるか頭上にあったオレンジのライトがガコンっと嫌な音を立て地面へ向かって行く。つい先ほどまでその女性スタッフがいた場所に立っていた三月がいち早く気づきスタッフを勢いよく突き飛ばした。


重さ6キロもあるライトが三月の上へと落ちた。すぐに病院へ運ばれたが出血が多く三月が目を覚ますことはなかった…






ライブは中止となり、メンバーが仕事の数も減らした。特に弟の一織の落ち込みはひどく、一時期は部屋からも出れないでいた


たが1人だけ、三月がいた頃と同じ…それよりも多いかもしれないくらいの仕事を受けた人物がいた。同じユニットでIDOLiSH7のリーダーでもある二階堂大和だった。


兄を亡くしたショックで部屋に閉じこもる一織を励まし、少しづつ仕事に復帰させるようにし、大事な人を再び亡くしパニックに陥った環を落ち着かせ、三月がいなくなったことで回らなくなった寮内の炊事や掃除を一手に引き受け、不安からくる陸の喘息にもそばにいてやり、他のメンバーたちの体調も気遣いつつ、自分は寝る暇も削り仕事に明け暮れていた。


その様はライバルユニットのtriggerが見ても心配で声をかけるほどだった。


ある日雑誌の対談インタビューとして呼び出された八乙女は向かいに座る大和を見てある一種の恐怖を覚えた


まるで、この先自分がいなくなってもいいように今全てのことを終わらせに向かっている…。和泉三月に加え二階堂大和まで居なくなるのではないかという、恐怖…


「おい、二階堂、お前、大丈夫か?すげぇ疲れてるみたいだけど…」


「なぁに?八乙女心配してくれてんのー?…大丈夫よ。ちょっーと忙しくて睡眠時間が短いだけだって」


雑誌記者が席を外した瞬間小さな声で声をかければ覇気のない声が返ってきた


「それに今のドラマの撮影が取り終わったら2、3日休み貰えるから頑張っとかないとねぇ。お休み減らされたら午前中からビール飲める日が少なくなるし」


ニヤッと笑うはいつもの何考えてるかわからない顔。だけどその顔に前のような安堵感は一切なかった。あるのは安堵感というより焦燥感…そんな感じであった


「あんまり無理するなよ?休みまでに身体壊したら楽しみもくそもないからな」


「わかってる。わかってる。大丈夫よー」


本当にわかってるのか。そう言いたい言葉を堪え戻ってきた雑誌記者のインタビューに答えて行った










「二階堂大和さんこれでクランクアップです!お疲れ様でした!!」


助監督の声が撮影所に響く


沢山のスタッフや共演者から拍手送られ、監督から花束を受け取った。


最後に一言お願いします。そう言われゆっくりと口を開いた


「まず、監督、スタッフの皆さん、そして共演者の方々、IDOLiSH7の事で撮影予定にご迷惑をかけてしまいすいませんでした。あんな大変なことがあって、正直俺はこの撮影から降ろされるんだろうな。と覚悟はしてました。でも、皆さんのおかげで最後まで撮影しきることができました。ありがとうございます。俺はこの映画に出演出来てとても嬉しいです。まだ残りの撮影がある方は頑張って下さい」


ゆっくりと下げた頭を上げると再び大きな拍手に包まれた


最後にもう一度監督をはじめ1人1人のスタッフや共演者にお礼を言うと撮影所を後にした









寮に戻ると他のメンバーは学校や仕事へ行っているのか寮の中は誰もいなかった。


最近の習慣になっているリビングやお風呂場、トイレなどの掃除、ついでに環の部屋の掃除も済ませ今度は台所へ立つ。朝、使った食器が残されているシンクを片付け夕飯作りに取り掛かる。


賞味期限の近いものを全て使った料理は最近作った料理の中でも1番の豪勢な料理と品数になった。


それをラップにかけ、あっためて食べろよ。と書いたメモを置き、部屋のクローゼットに大切にしまってあった深碧色と老緑のボーダーのカーディガンに袖を通しベットサイドへスマホの電源を切って置くと、お気に入りの貰った靴を履いて外へ出た。


あと数時間で雲ひとつない青空がオレンジへと変わる。


ゆっくりしっかりとした足取りで向かうのはこの辺で一番高いビルの屋上。


三月がこの世を去ってから何度も何度も訪れたビルの屋上へ向かう。


いつもフェンスを乗り越え屋上の淵ギリギリに立っていつ飛び出そうかと考えていた。


さぁいこう。そう思うと残ってる仕事や、寮に置いてきた未成年組が頭の中をよぎり結局足を踏み出すことができなかった。


フェンスの中に戻るたび毎回、嗚咽を零しながら、ごめん。と繰り返した。


その謝罪は、助けてやれなかった、身代わりになってやれなかった三月への謝罪なのか、全てを捨てて、置いて行こうとした、他のメンバーへ対する謝罪なのか、それともこんな事を考える自分への謝罪なのかは大和自身も分かってはいない。


カンカンと音を立てながら上る外階段。


ギィ…と鳴る屋上への扉。


いつもなら多少は雲がある空。


フェンスに持たれるようにして地面へと座り込み目を瞑る


「…仕事は?…全部終わらせた。この後の仕事は明日マネージャーと決める予定だった。
兄を亡くした一織は?…大丈夫。イチは強くなった。他のみんなが支えてくれる
大事な人をなくてパニックに陥った環は?…タマも大丈夫。ソウも居るし。
じゃあ壮五は?…大丈夫。案外気も強いし、頼りになるし
同じユニットのメンバーを亡くしたナギは?…アイツがいればメンバーは笑顔を持って居られる。メンバーが笑顔を持ってれば、ナギも笑ってられるから大丈夫
陸は?…イチも居るし、ソウもタマもナギもいる大丈夫。ナギが笑えばリクが笑う。リクが笑えばナギが笑う。
……大丈夫。全部終わらせてきた。ソウやタマ、イチにも料理を教えた。やれる事は全部やった…」


閉じた時と同じようにゆっくりと目を開ければ薄っすらとオレンジ色になってきた空


ギッと鳴るフェンスを掴み立ち上がるとそのフェンスを乗り越える。


屋上の淵へ立ちじっと青からオレンジへと変わる空を見る


事前にネットで調べて居た。いつなら雲ひとつなくて、この空が綺麗な、大好きなアイツの色に変わるのかを。その日が今日だった。


ちょうど映画のクランクアップと重なり、今まで来てはダメだと拒絶されてたのがやっと許可が下りたのだと嬉しかった。


寝る暇を惜しんで頑張って来たことが報われたと思った。


いつの間にか空はオレンジ一色となっていた


「ミツ、みつき、やっと、逢いに行ける。俺、頑張ったよ?ミツが居なくなってから、ずっと、ずっと頑張った。もう、いいよな?すぐに行くから、待ってて…」


フェンスを掴んでいた手を離しミツからプレゼントしてもらった靴を揃えて脱ぐ。


靴と一緒に三月から貰った大事なカーディガンは脱がずに


ーやっと逢いに行けるよー


そう呟き、足を空へと踏み出した。



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