貴方を離さない 青×赤

□貴方を離さない
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−−−きっかけはささいなことだった−−−

「へぇっくしゅん!!」

俺は一人で自主連をしていた。
最近、全く練習に身が入らずメンバーに明らかに自分が迷惑をかけているかをしかと実感したからだった

(これはきっと花粉症のせいだな...)

そう自分に言い聞かせると、先生が振り付けたステップを着実に踏んでいく

すると 10カウントもしないうちに足に力が入らずくらりとよろけた

(何でなんだよ... これは花粉症のせいなんじゃねぇの?)

練習に身が入らなくなったのはつい一週間まえのこと。
その日に何があったかなんて全く覚えてないし、きっと鬱な花粉症がずっと付きまとっているからだと思っていた。

(でも何かが違う気がする...)

何が原因なのかも分からないまま、ふぅと息をついた
昨日からやけに体が熱い。
頭もボーッとしている。
何気なく、規則正しい音を奏でる時計に目をやると 明らかに悠長に休んでいる場合ではないことを悟った。

(ヤッベェ!もう泉たち来ちゃうじゃん!)

時計を見ると、アルスマグナの朝連が始まる15分前だった。
頬を少し強めにはたくと、サビの振りを踊っていく

(ヤバい...頭がボーッとして...)

サビの細かいステップを終える直前、足が思いきりもつれた
うっすらと開けた視界に一気に床が迫ってくる

(もう無理だ...)

そう思った次の瞬間、俺は覚えのある香りに包まれていた

「うっ... あれ? い..ずみ...?」

「大丈夫ですか?」

見上げた先にいたのは、同じ2Aの泉だった。
気づくと、座った体勢の泉にのし掛かるようにして倒れていた

「な..んで...?」

頭もまともに回らず片言しか出てこない俺に、泉は軽くため息をつきながら切り返した

「そろそろ練習だと思ってきたら貴方がおぼつかない足取りで踊っていたので、眺めていたらいきなり倒れてしまって...
ギリギリで体を滑り込ませたんです。」

見ると整った泉の顔がわずかに歪んでいた。
本気で心配させたらしい。

「そうか... 助けてくれてありがと。
もう大丈夫だから...」

立ち上がろうと足に力をこめると、ズキりと痛みが走った。
わずかにうめくと、泉は俺の体操服のジャージーパンツをたぐった
すると、見えた俺の足首は青くなっており、軽く腫れていた。

「...今日の練習はお休みのようですね...」

少し乱れた前髪をなおすと、泉は俺の体をふわりと持ち上げた
突然の出来事に顔が一気に紅潮する

「なっ、なにすんだよ!!!」

「足がこんななんですから、歩けもしないでしょう?
それに、あのふらつき方は熱でもあるのではないかと思ったので。」

静かに切り返すと泉はそのままドアへ向かっていく。
開けようとしたその時、急にドアが開いた。

「よぅ、泉。どうしたんだ?」

先生は妙に落ち着き払った眼差しで俺と泉を交互に見た。

「アキラが足を怪我してしまったようなので今日は、俺も看病のために休んでもいいでしょうか?」

(えっ!泉も!!?)

これ以上迷惑はかけまいと声を出そうとするが、上手く声にならなかった

「あー アキラがいないとキツいしな...
出来るだけ早く復帰できるように、看病頼むぞ?」

(先生ぇーーー!)

あっさりと承諾した先生を軽く恨みながら俺はお姫様だっこで連れていかれる

「足は痛みますか?」

唐突に話しかけられて驚いたが、声が出るわけでもないので首を横にふった

「そうですか」

一言返すと、スタスタと歩調を早める泉を俺はこっそり盗み見た。

が、視線に気づかれ 目が合う

(綺麗な目...)

俺はそれだけを感じるとまたボーッと眺め始める
泉はフッと視線を俺から前に戻すと、さらに歩調を早めた。

(そらされたな...)

ただじっと泉を見つめる。
見れば見るほど綺麗な泉に朦朧な意識は目をそらす気力を奪った。

「つきましたよ。」

危うくそのまま寝てしまいそうだった俺を無理矢理引き戻すと、静かにベットに寝かされた。
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